幼竜vs魚
《私、役立たずですね。》
「いやその…そっそうだ。」
しゅんと落ち込んでいるマーヤレイシアの気を引くために少し大袈裟に動く。
(大声を出すなんて何年ぶりだろうか、あとで発火草をかんでおかなければ痛くなるな。)
喋らないルトール決死の声は地面にのの字を描き始めたマーヤレイシアに届いたようである。
《?》
きょとんと首をかしげ?だけの念を送る。
「お腹すいてるだろう?作ってあるから食べよう。」
《はい……。》
(なんとかなったな。)
機嫌はなおってないものの話題を変えられてよかったと思いながら、甲斐甲斐しくさっきから作っていた料理を取り分ける。
(……食べれないものを獲ってきて場所を占領した上、さらにただ飯三食目。)
だんだんと暗い方に思考が流れていき、またのの字を描き始める。
暗い気分の時、のの字を描くといいとマーヤレイシアの知識が言っているから間違いない。
(なんか余計暗い気分になるのはなぜでしょう? うーん私にできること…。)
今、ルトールがやっていた食事はマーヤレイシアの短い肉球のついた手では難しいし魔法を使ってもうまくイメージが出来ないから無理である。
というよりなんとなく作ることをマーヤレイシアの本能が微妙に拒否していた。
(うーん、狩ってもすぐには食べれない、そうだ狩るんじゃなくて採るのはどうだろう?)
マーヤレイシアの普段は精度を落としている嗅覚を使えば食べれる実や茸、野草を探すのは簡単だし風の魔法を使えば一瞬で集まる。
(完璧ですね。)
《ルトー食後のおやつに美味しい木の実採ってきます!》
「それならもう採ってあるぞ?」
見せられたのはマーヤレイシアの大好きな甘い木の実たち。
《わぁー私の好きなやつばっかりです。》
「多めにとったから好きなだけ食べればいい。」
《ありがとうございます、いっぱい食べます。》
食事の話とは比べ物にならないほどキラキラというよりギラギラ輝く目にちゃんと食事をとってくれるか不安になって釘を刺す。
「食事もちゃんととらなきゃダメだからな?」
《はい!》
「…。」
「出来たからそこに座っていてくれ。」
指されたのはルトールの上着がかけられている切り株だ。
前には土の魔法で作られたのであろう机が置いてある。
《上着の上にのっていいんですか?》
「あぁ構わない。」
《じゃあ待ってますね。》
ルトールが食事を机の上に置く。
ふわふわと干し肉とおそらくこの森で採れたであろう茸と山菜の匂いが漂ってくる。
(美味しそう…。)
微妙に涎をたらしながらにへらぁと笑うマーヤレイシア。
体ごとしっぽをブンブン…否ゆらゆらとゆらしご機嫌である。
(干し肉にー)
ゆらゆら。
(きのこにー)
ゆっらゆっら。
(さんさーいにー…。)
ゆらゆらゆらゆら…。
ピタッ。
「しゃかな……。」
苦手な魚の臭いにさっきまでご機嫌に振っていたしっぽは下がり、目は虚ろである。
「魚?魚がどうかしたのか…。」
(魚、嫌いなのか…だが肉より魚の方が体にいい、ここは心を鬼にして食べさせなければ。)
しゃべったっということに驚いて問うより、栄養面の心配やそれで嫌われないかを考えるルトールは筋金入りである。
(魚は臭い…でもただ飯で文句は言えない…)
こっちはこっちで子供にあるまじき発想で考え事をする。
結局どちらもズレているというのに気づかない。
「マーヤレイシ……。」
《ルトー、食事美味しそうですね。
もう食べていいですか?》
そんな中ルトールが嗜めようと名前を呼び終わる前に動いたのはマーヤレイシアだった。
「へっ?あっああ、構わない。」
「いただきます!」
まずマーヤレイシアが手に取ったのは干し肉のスープ。
「きゅー。」
スープは茸の風味と山菜の甘さそして干し肉の塩味のバランスが絶妙で簡素だが優しく素朴な味わいでいくらでも飲めそうだとマーヤレイシアは思った。
茸や山菜はまだ病み上がりのマーヤレイシアのためにくたくたになるまで煮込んだのだろう、とろけそうなほどやわらかい。
「うまぁ。」
「………。」
さっきからちょこちょこ念話を使わずに話していることにつっこめばいいのか、はたまた実は喋れますとカミングアウトを待つのが良いのか悩むルトールに気がつかずマーヤレイシアはしっぽをゆさゆさ。
そしてだんだんとルトールの思考は肉球つきの短い前足でスプーンと皿を持ち食べているマーヤレイシアは器用な幼竜だ!
すごいっと変な方向に進むのである。
温度差はいくつであろうか。
「うまうま。」
器用にスープを食べている手もスープがなくなれば止まる。
(次は魚だな…頑張れマーヤレイシア。)
一度、ルトールの方を向き目で訴える。
(魚食べなきゃダメ?)
同じくルトールも目で訴える。ルトールのは拳つきである。
(頑張れ…。)
初めてのアイコンタクトが嬉しくて耳が赤くなったのをマーヤレイシアは激励ととり覚悟を決めた。
「……いざゆかん。」
口に入るまでの刹那それはマーヤレイシアにとって永遠にひとしい時間であった…嫌なことは長く感じるものである。
ぱくり。
魚臭さが口に広がっ…らなかった。
今、マーヤレイシアの口のなかに広がるのは香草のいい匂いと魚のさっぱりした油。
塩もいい塩梅である。
「………。」
「………。」
「う…。」
「う?」
「うまぁぁ!」
「そうか。」
言葉こそ冷静ではあるが顔の筋肉は緩み口角が上がっている。
明日は筋肉痛であろう。
「りゅとーこれおいしいです!くしゃくないし苦くないですよ!」
「そうか…よかったな。」
(やっぱり喋ってるな。
だが臭いはともかく苦いはなんだろう…?)
「それに痺れないし歯に固いのが当たりません!」
「痺れる?固いの?」
「はい!魚はくしゃいし苦いししぃれるし固いししゃりしゃりした触感が苦手だったんです。
でもこれは全然ちがいます。」
(毒を持った魚何にもせず鱗ごと食べれば嫌いにもなるだろう…。)
「どんな魚を食べたんだ?」
「おっきくて青いやつとか赤いやつ。」
色からしてアウトである。
「魔法も使うんです。」
(魚の前に魔がつくな。しかも毒性があるのは…いや考えるな考えたらダメだ。)
ふと頭に該当する魔魚が浮かぶが考えたらダメだと思考を放棄する。
A+ランクの後に亜龍になる魔魚なんてしらない。
「まずいし食べないけど鱗がきれいだかりゃ定期的にとってたんです。」
「そうか偉いな…。」
「みますか?」
「食べ終わったら見せてくれ。」
「わかりました他にもきれいなのいっぱいありゅから見せますね!」
「あぁ。」
(どこに置いてるんだろう?)
魚との勝負はルトールの下ごしらえ勝ちでした。
まさしく漁夫の利?
次はお喋りにツッコミをいれる予定。
魔物…魔獣や魔魚、魔木などの総称
亜竜・亜龍…竜や龍とは似て非なるもの、見た目が竜や龍に似ているためそう呼ばれているだけであり根本的に別の生物。
マーヤレイシアの前足…とても器用・魔法で補助していると言う噂もあるが自前であり本当に器用なだけ。
ある意味これがチート