人間の野営とりゅうの野営
そんな話をしている内に道が段々と開けてきた。
「もうそろそろか。」
《あっご飯!》
「は?」
ピョンとうさぎのようにジャンプしたあと小さくしまっていた羽を広げてマーヤレイシアは物凄いスピードでどこかへ飛んでいく。
「マーヤレイシア!! 」
「きゅーーう!!」
久しぶりの大物に念話も忘れての返事である。
(産まれて間もないのに、あんな速い飛行もできるとはマーヤレイシアは天才だな。)
いきなり自分のもとから離れていったマーヤレイシアに処理落ちをこえての称賛を送り始めるルトール。
そして段々とネガティブになっていくのは仕方ないことである。
(…戻ってきてくれるだろうか。)
一方マーヤレイシアはご飯を追いかけていた。
ご飯の名前はマッシュオーク。
キノコが生えた豚で味はキノコが生えているお陰か風味豊かで塩をかけるだけでも美味しく高値で取引される。
とはいえ生えている茸の胞子に幻覚を見せる作用があり大きくなると10メートルを軽くこえる巨体になり騎士団が出動しなければならなくなる危険な魔物である。
《マッシュさん止まりなさい。》
そしてマーヤレイシアが追いかけているのは15メートルの巨体を持ちキノコが雷を纏うマッシュオークの上位種マジックマッシュオーク。
倒すとキノコが中位の魔石になりキラキラするのでマーヤレイシアがとても好きなご飯である。
食べて美味しい、見て楽しいは正義なのだ。
マーヤレイシアは考える。
どうやってこの豚を食べようかと、塩をふって食べるのは確かに美味しいがマーヤレイシアには少しこってりしすぎているのだ。
やはりここは木の実のソースを作って食べるのが油がさっぱりしていいかなっと当たりをつけると、にんまり笑って加速する。
《いきます!》
いきなり目の前に現れた小さく光る物体にマジックマッシュオークは驚くもすぐに雷撃を放つ。
一見、キノコに寄生されているようだがその実、自ら生やすために毛皮を固くし寄生されてもいいようにしてから親から一本もらい自分好みに繁殖させ自らの武器にしているのがマッシュオークである。
その見事に育て上げたキノコの魔法は絶大であり何も残らないはずだった。
はずだったのだが眩しそうに目を細める虹色に光る物体マーヤレイシアには一筋の傷すらついていない。
どちらかというと雷の魔法を分解吸収し元気になっていた。
《…眩しい。》
とはいえいきなり光が当たれば眩しく目が痛くなるのは当然…そしてマーヤレイシアはマゾではないどちらかというとサディストである。
痛いのは嫌なのである、痛い目にあったら痛い目にあわせてやりたいのである。
パシリとしっぽを下に降り下ろし大地の力に干渉する。
竜がブレスを吐くとき上下にしっぽをふるのは天と地、両方に干渉する意味もあるのだ。けしてなんとなくではない理論に基づいてなのだとマーヤレイシアの知識は訴える。
力に干渉したあとは簡単、相手にしたいことを考えるそれだけで大地はマーヤレイシアに答えてくれる。
「すねはベンケイ?のにゃき所、いたいいたいになっちゃえ。」
ベンケイはよくわからないが脛はベンケイの泣き所で衝撃をに弱いとマーヤレイシアの知識が語るよくわからない知識が多いものである。
その瞬間、土が盛り上がり固くなり鋭くなってマジックマッシュオークの脛めがけて飛び出し植物はマジックマッシュオークを締め上げる。
ちなみに言葉にするのはなんとなくだ。
(言葉練習してたけどなかなかうまくなってます、ルトーを驚かせるのも時間の問題ですね!)
どや顔は忘れないのがマーヤレイシアである。
マジックマッシュオークは苦しそうにもがきながらもおそらくこの現象のもとになった虹色の物体を睨め付けた。
バチバチと草木を雷撃で焼き切り土塊のささった肢体に力を入れ魔法で強化しながらの突進。
己の最大の武器でもって空飛ぶ虹色の物体に突っ込む。
いきなり突っ込んで来たマジックマッシュオークにビックリしたがマーヤレイシアは体を宙に固定するだけで迎え撃つ。
倒れたのはマジックマッシュオーク。
ちょうどマーヤレイシアが浮かんでいた高さにある額にはぽっかりと人間の頭二つぶんくらいの穴が空いている。
マーヤレイシアは人間の頭二つ分枕くらいの大きさでマジックマッシュオークは15メートルちょい、尖った針の先か丸い針のしりなら尖った針先の方が当然貫通力がある。
それにマーヤレイシアの鱗は伸縮性があるからモチモチぷにぷにしているだけで実は魔法も物理攻撃も簡単に跳ね返すほど固いのだ。
そんなわけで針が布を貫通するようにマーヤレイシアはマジックマッシュオークを貫通したのだった。
一方ルトールは地道に野営の準備をしていた。
まずは薪を集めるところからである。
なるべく乾いた枝や落ち葉を集めては戻り集めては戻る。
ある程度薪が集まったところで次にするのは食材の確保。
本当は先に火を起こしたりいろいろしたいのだが下手に放っておいて火事になっては大変なためである。
魚は釣竿等ないので剣で身を傷つけないように一気に取る、三十分もたたないうちに10匹取れた。
(これだけあれば足りるな。)
帰り際に木の実を見つけては少し残して採っておく。
(甘いものが好きなようだし少し多めに採るか。)
最後は寝床の確保である。
雨が降ってもいいように風の魔石で雨よけの結界をはり、あらかじめ用意していた獣や魔物の嫌う香草を火種に魔法で薪に火をつける。
(…戻ってこない。そもそもご飯というのはなんなんだろうか。)
パチパチと火が音をたてる。
魚は血抜きをして臭みを消すため内臓の代わりに森で見つけた香草と木の実を詰めて焼いている。
他に有り合わせの物ではあるがスープも作る。
だんだんといい臭いが漂ってくるがそれでもマーヤレイシアは帰ってこない。
(もう帰ってこないんじゃ…。)
鼻がツーンとする、涙腺は崩壊寸前である。
ズシン──。
ズシン─。
「ん?」
がさがさと木が動く現れたのは15メートルのマッシュオークだった。
(っち、こんなときに。)
涙腺がどうのの前に命の危機だ。
とはいえ明らかにマジックマッシュオークは自分に向かってきている、逃げても意味はないだろうとルトールは剣を抜いた。
(一撃で首を切れれば…。)
剣に魔力をどんどんとため体に身に付けている身体強化の魔石のついた装身具4つにも魔力を込める。
(…凄まじく高かったが買っておいてよかった。)
とはいえこれらは無駄になった。なんとも間の抜けた声によって。
《ルトー何してるんです?》
それはマッシュオークから聞こえてきた。
「マーヤレイシア!?」
「きゅーい。」
ドスッという音と共に赤く煌めくマーヤレイシアであろう幼竜が出てきた。
「………赤?」
口をぽっかりと上げルトールは完全に固まった。
《ん?血ですね。》
「血だと!? どこか怪我をしているのか!」
ぎょとしながらマーヤレイシアに神速で近づき急いで裏返したりしながら確認し傷のないことが分かってほっと息をつくルトール。
《返り血ですよ。》
「紛らわしい!」
あははと笑うマーヤレイシアの体に魔法で作り出した温かい水球をあて洗っていく。
《ちょくすぐった。あにゃー。》
とりあえず温水で血を流し、臭いの残らないように石鹸にも使われる香草を一瞬で乾燥させそして新しい温水に入れてマッサージ。
最初はくすぐったかったが後は気持ちよくてマーヤレイシアはルトールに身を任せていた。
それからしばらくして…巨大マッシュオークを前にルトールは質問していた。
「ところでこれは…。」
《ご飯です。獲ってきました。》
「……。」
(マーヤレイシアの特技はご飯を狩ることだったな)
ポンポンと頭を撫でてから「よくやったな…。」と褒めた。
少し遠い目なのは仕方ないことだ。
《血抜きはしましたよ。》
「熟成は?」
《熟成?》
「このまま捌いても食べられないことはないがあまり美味しくないし硬い。」
「きゅう。」
(そういえばお兄ちゃん達が食べてからしか食べてないや…。)
「しばらく置けば美味しくなるが…。」
《どのくらいかかります?》
「3日から5日…。」
「……。」
マーヤレイシアはお兄ちゃんたちのあとしか食べないしなんとなく低温で保存してたのですぐに食べられると思ってましたが
豚肉などよほど早く食べない限り熟成させないと死後硬直で固くてあまり美味しくありません
ちなみに温度は1~2度だったはず?
あんまり覚えてなくてすみません。
これからも更新がんばります