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愛する娘に贈る加護
むかしむかし、まだ竜と呼ばれるものと人が合流を持っていた頃のこと…。
《あぁ、愛しい我が娘よ、私はお前ともに生きてゆけぬようだ。
もう羽ばたくことすら辛い。》
その生き物は森一つ隠せてしまいそうなほどに大きく虹の鱗に覆われたしなやかな肉体と金とも銀ともつかぬ色に輝く角と爪を持ち、そして薄く青みを帯びた皮膜をもつ羽でもって空を翔ていた。
《まだ卵から孵ったお前を見ていない、産声を聞いていない。
笑った顔も悲しむ顔もなにも、なにも見ていないというのに。》
瞳に人なぞにははかり知れぬ知性を窺わせる瞳にはただひたすら娘への愛を湛え、まだ孵らぬ娘に語りかける。
《だからせめて、お前に私の知識を力をそして加護をこのと引き換えに与えよう。》
空を飛びながら美しき生き物────竜と呼ばれるそれは泡沫の夢が如く掻き消え、残るはどこか悲しげに輝く卵。
それはゆっくりと地上に広がる森に落ちて行った。