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第2話 二人との急接近

「なんなのよこの展開は。」

眉間に皺を寄せ羽莉は溜め息をつき頬杖をついた。

「すっごいじゃん!あの『凛』の二人に気に入られるなんて!」

「よくないよ!ただでさえ苦手なのに気に入られちゃってさぁ。どうしよぉ…。」

ギュルルッ…

突然、羽莉のお腹から盛大に聞こえる音。羽莉は赤くなり手で押さえた。

「あ、え?」

「…食べよっか。」

「う、うん。」

微笑して美雪がパンの袋を開けた。羽莉も机の上のパンを手に取った。が、

ガラッ

「三園、飯行こ。」

その怠そうな声に羽莉は反射的にパンを再び机の上に落としてしまった。

「なっ、名城君…ッ?」

サァァと顔の血の気が引く。バッと周りを見回すと、怒りに震える女子の姿。

「水樹様!?一体どういう事ですか!?」

「うるさい。三園、早く。」

「は!?や、やだ!あたし美雪と食べるもん!ね、みゆ…」

美雪に助けを求めると、なぜか美雪は満面の笑みで羽莉の肩を掴んでいて。

「み、美雪?」

「どうぞ〜、煮るなり焼くなり好きにしてください。」

「はぁ!?」

美雪の力はすごいもので、簡単に入り口にいる水樹に引き渡された。

「そうさせてもらう。」

「へっ!?」

ガシッと羽莉の腕を掴み、早々と歩き始めた。

「ちょっ!美雪!」

美雪はしてやったりというような笑顔をつくり親指を立てた。

「うっ、裏切り者ぉ〜!!」

泣きそうな顔で羽莉は引きずられるように連れて行かれた。


「ちょっ、痛いって!はなしっ…!!」

「陵。」

「あ、ちゃんと連れてきたか。」

芝生に寝転がっていた陵夜は二人を見て起き上がる。

「陵が連れてくればいいのに。あの女達うざい。」

「…あの、ここは?」

サァッ…

気持ちいい風。大きな木の下で、人目みつかない静かな場所。太陽の光が、葉の隙間から差し込んでいる。

「いい…場所だね。」

「だろ?ここなら、誰にも邪魔されない。」

「…三園なら好きな時に来ていいって陵が。」

「え…。」

…こんないい場所…この学校にあったんだ…。

「さっ、お昼食べましょ〜。」

「う、うん。」

陵夜に場所を空けられストンと座る羽莉。

…ん?

「じ、じゃなくて!!」

「ん?なに?」

危うく流されるところだった…!!

「なに?じゃなくて、なんであたしがあなた達とお昼しなきゃいけないわけ!?」

「へ?」

もう陵夜は焼きそばパンを頬張っていて、水樹はパックのコーヒーをズズッと音をたて飲みながらキョトンとこちらに視線を向けた。

「い、いきなり仲良くしようとか意味分からないし、第一、あたしじゃなくてもあなた達と食べたいって人は山ほどいるんだから、そっちいけばいいじゃん!」

「それが嫌だからこうして…。」

「あっ、あたしは道具じゃない!!」

このケロッとしたとこがむかつく…!!

「あっ、あなた達のせいで女子の視線やばいんだからね!?その辺もうちょっと考えて…!!」

「ふぅん。」

二人の態度にいい加減頭にきた羽莉は怒りに震え立ち上がった。

「人の話を聞け!!!あたしはあんた達が嫌いなの!!分かる!?女の子みんながあんたらに惚れてるとか思ってんなッ!!」

その怒号に二人はポカーンと口を開け羽莉を見上げていた。

ああもう!苛つく!!

「それが分かったならもう話しかけてこないで!!さようなら!!」

言いたいだけ言ってプイッと背を向けて小走りした。

「羽莉チャ〜ン?…行っちゃった。」

「すげぇなあの女。あそこまで気の強い女初めて見たよ。」

「俺も。……たまには雑食もいいかもねぇ。」

陵夜はニヤリと笑って舌なめずりした。水樹はそれを見てふう、と溜め息。

「また悪い癖が始まったよ…。」


「ない!ない!ないないない!」

机の中や鞄の中をゴソゴソと探りバンッと机を叩いた。

「なにが?」

「けっ、携帯がない!!」

「はぁ?」

青ざめる羽莉に美雪は面倒くさそうに目を細めた。

「あんたのことだからトイレにでも忘れたんじゃないの〜?」

「お昼まではあったのに…っ」

「鳴らしてみる?」

「う、うん…」

携帯を取り出す美雪に羽莉に頭を抱えた。

「……あっ!!」

「わっ、なに?どした?」

羽莉の大声に驚き美雪は携帯を落としそうになった。

「思い出した!!ちょっと取ってくるね!ちょっと待ってて!」

「はいはい。」

溜め息をつく美雪に謝り羽莉は教室を飛び出し廊下を走った。

今日のお昼の場所に忘れたんだ!!もう最悪!あの二人に拾われてたら…!

階段を駆け下り、裏口への戸を開ける。校内に入り込んだ風が頬を撫でた。今日いた大きな木の下に目をやると。

「…あれっ?」

腕と足を組み寝転がる人物。おずおずと近寄ると、その人物に眉を寄せた。

「こいつ…。」

水樹がスヤスヤと寝息をたて眠っていた。白い透き通るような肌に微かに陽が当たり、黒い無造作に伸びた髪は風に揺れている。その寝顔に羽莉はピタリと立ち止まった。

「…悔しいけど…かっこいいな畜生。」

近くに寄り顔を真上から覗き込む。

そういえば…よく顔見たことなかったかも。

太すぎず細すぎない形の整った眉に、縁取るように生えた長い睫毛、スラリとした鼻筋。どっちかと言うと女の子のような“綺麗”かもしれない。

「…あっ、」

水樹の組んだ腕の上には身の覚えのあるストラップがついたオレンジの携帯。

「あたしの携帯…っ」

起きる前に立ち去ろうと、起こさぬ様に歩みを進め、そっと携帯を手に取った。

よしっ。

心の中で小さくガッツポーズを取り、起きていないことを確認してその場を離れた。

ふふっ、ミッションクリア!

振り返り勝ち誇ったように笑みを浮かべると、前を見てなかったせいか足がもつれ体が傾く。

「ふわっ…!?」

宙に浮くような感覚。気づいた時にはガシャーンと大きな音をたて豪快にひっくり返っていた。

「…ん…?」

水樹はその物音に目を開け、欠伸をしながら起き上がり頭を掻いた。

「…なにしてんの?あんた。」

羽莉の格好に目を細める水樹。羽莉は恥ずかしくて顔を赤く染め地面に伏せた。

あたしって…本ッ当ドジ…(泣)

「ねぇ、聞いてる?」

「きっ、聞いてる!転んだだけ!」

ガバッと起き上がり制服を(はた)き立ち上がった。膝や手についた土も払う。

「なんでここにいるの?」

「けっ、携帯忘れたから取りに来たの!」

「携帯?…ああ、やっぱりその携帯あんたのだったのか。」

羽莉の手の中にある携帯を指差しまだ虚ろな目を擦る。

「結構ドジだったりする?」

「ほっ、ほっとけ!!」

ああもう!恥ずかしいんだけど!

「あっ、あのナルシストは?」

「ぶはっ、ナルシスト…」

その言葉に軽く吹き出す水樹。口を押さえ小さく笑った。

「あいつなら女のところ。戻ってくるまで昼寝。」

「…ふぅん…」

自分で聞いておいて興味なさげに返事をする羽莉。

「あんたさぁ、」

「な、なによ。」

「思ったことよくハッキリ言うよなぁ。」

面白いモノを見るように目を細め笑う水樹に、羽莉の心臓が小さく跳ねる。

「ど、どういう意味?」

「俺らあんなこと言われたの初めてなんだよ。教師とかも俺らがやることに口出さないし、女子なんか犬みたいに言うこと聞いてよ、」

伸びをして立ち上がると、

「なんかああいうの新鮮だなーって。」

また目を細め笑った。

…意外と…よく喋るな。もっと無口だと思った。

「笑えるんだ?」

「…は?」

真面目な顔をして聞く羽莉に水樹はまたいつもの表情に戻り首を傾げる。

「いっつも不機嫌そうにぶすーっとした顔してるじゃない。」

「…別にそんなことないけど。」

「そんなことある。ファン減っちゃうよ。」

「…どうでもいいし。」

…あれ?なんかあたし、結構普通に話してない?

ふとそのことに気づく。

「じっ、じゃああたし帰るから!」

そう言って戸に手をかけた。すると水樹は思い出したようにポンと手を叩く。

「ねぇ。」

「な、なに?」

眉を寄せて振り返る。意味ありげに笑いスカートを指差す。

「スカートがなに?」

「今時ウサギ柄とか履いてる女、いるんだね。」

「…ウサギ柄?」

その言葉に首を傾げる。すると、なんのことか意味が分かり、バッとスカートを押さえ顔を真っ赤に染めた。恥ずかしさに声を震わせる。

「みっ、見たっ、のっ…!?」

「パンツまでガキなんだ?」

「ッ〜!!」

恥ずかしさに耐えられなくなった羽莉は勢いよく戸を開け、

「最低ッ!!!死ね!」

と叫んで急いで階段を駆け上っていった。水樹は腹を抱え笑い出し、

「おもしれー女…ッ」

と呟いた。



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