90話 無理、無理、私には無理
伊集院実朝は、半漁人のことも幽厳村正の事も
些細な事だと言う。
じゃあメイサや千秋をここに呼び寄せた本当の
理由は何なんだと聞こうとした矢先、突然建物
全体に威嚇ブザーが鳴動した。
「な、何?」
驚く千秋達に
引き続き場内放送が流れた。
「侵入警報、侵入警報発令。B地区にグール侵
入、関係所員は直ちに所定の持ち場について
ください」
どうやらグールが侵入したようだ。
「グールが侵入って、ここはグールの巣窟だろ
うが」
力也が狼狽えながらも叫ぶと
「グールは6体。侵入グールは6体です。至急
持ち場に移動してください」
「おいおい、なんでグールが侵入したのにこん
なに慌てるんだよ」
千秋は雪と伊集院を見た。
表情は深刻そのものだ。
とても演習や冗談には見えない。
しかしそんな千秋の思惑を無視し、伊集院と雪
は二人でコソコソと話し合っている。
「6体なんておかしいと思いません?」
「策略だろうな」
「本命はA地区が怪しいな」
「じゃあ、6体はこの人達に」
突然雪は千秋に向くと
「侵入したグールの退治はあなた達にお任せ
するわ、私と伊集院先生はA地区に回りま
す」
「えっ?」
「ここに来る6体のグールはそんなに強くない
はず、お願いね」
「ちょっと待ってください、グール退治なんて、
どうして私達が・・・」
「今までお仕事でやっていたでしょ。同じこと
をしていただければいいだけよ」
雪はあっけらかんと言った。
「何言ってるのよ、私は科学者よ、戦いなんて
できないわ」
メイサが悲鳴を上げて、雪や千秋を見た。
目は恐怖で引きつっている。
「無理、無理、私には無理」




