8話 圧倒的な力の差だと幽厳は言う
一歩前に出た幽厳村正は目で力也に合図を送る
と、力也は幽厳村正と少し距離を置いて平行に
並んだ。
「千秋はその女を守れ」
「何でよ、実力のわからない相手、しかも三人
よ、それを二人で戦うなんて無謀よ」
「わからないのか、あのS級グールはその女を
追ってきたんだぞ、俺らなぞ眼中にない、S
級グールはグール化していても人間の知性は
保っていると聞く、ならばあいつらは俺らよ
り、あの女の方に興味があるはずだ」
「でも」
千秋は言いながらもゆっくりと女の前に立った。
幽厳の言う通りだ。
もしあのグールがS級グールで、S級グールの
実力が噂道理なら、三人が束になって戦っても
勝てる要素はない、機を見て女を連れて逃げろ
といっているのだろう。
納得すれば栗原千秋の行動は素早い。
「わかったは、いつでも始めて頂戴」
千秋は、女と赤ん坊に密着しなが力強く叫んだ。
千秋の言葉を聞くと、幽厳村正はゆっくり前進
した。横の力也に
「お前も少し下がっていろ」
と命令した。
「何故だ」
「おかしいと思わないか、あいつら俺たちの打
ち合わせをゆっくり待っているように見えな
いか」
首をかしげる力也に
「本当ならすぐに襲ってきていいはずだ。なの
に俺たちの態勢が整うのを、まるで待ってい
るようだ、そう思わないか」
「あいつらも何か作戦を立てていたんじゃない
のか」
「俺達ひ弱な三人相手に作戦などいらんよ」
「俺らはひ弱か?」
「ああ、あいつらに比べればな」
「どうしてそう言い切れる」
しばらく言いにくそうにしていた幽厳村正だっ
たが
「昨日の会議でビデオを見た」
「何のビデオだ」
「S級と戦うハンターの殺られるさまをな」
黙ったままの力也に
「まるで人形のようにハンター達が消滅してい
ったよ」
「なんで黙っていたんだ」
「お前もビデオを見ればわかるさ、あまりの実力
の差にあんなビデオ見せられたら戦意が喪失し
ちまうよ」
「じゃあわざと見せなかったのか」
幽厳村正は深く頷いた。
「じゃあ、俺たちは、、」
ごくんと唾を飲み込むと
「結構やばいってことなのか」
「言っちゃ悪いが、勝ち目はゼロだ」
「おいおい、どうするんだよ」
幽厳村正に近寄ろうとする力也を
「来るな!」
と止めた時、目の前の三人のグールが陣形
を変えた。