87話 不思議に思っていたことがあるの
雪は三人を交互に見ると
「半魚人は人間のある組織と通じてるの」
ゆっくりと、言い聞かせた。
「半魚人が人間と手を組んでると言うの?」
言われて瞬間千秋にはある男の顔が浮かんだが、
口には出さなかった。
「半魚人が人を食べる時は、こっそり海の中で、
グールはわざと目に付くように食べる、そん
な取り決めをしたらしいの」
「まさか」
「そして、時期が来るまでは海岸付近から来な
いようにと、だから人間には今まで気づかれ
なかったの。もっとも半魚人を目撃した人は
その場で食べられたから人に伝えることもで
きなかったでしょうね」
メイサは絶句した。
しかし千秋と力也は何も言わない。
「そんなことしたって、人間に何の役にも立た
ないじゃないの」
「グールと半魚人を戦わせて、両方を弱らせる
作戦よ。漁夫の利を得る作戦、昔からあるわ」
メイサの言葉に千秋が反応した。
「そんな作戦両方が乗る訳ないでしょ」
「勿論グール側は乗りはしないわ、でも半魚人
なら有り得る話よ」
千秋は断定的に言った。
「千秋ちゃんの言う通り。私達の調査でわかっ
たことは、人間がある一定数の人間を定期的
に半魚人に提供し、その見返りに、半魚人は
グールを襲うと、そんな取り決めがされてい
るみたい」
「ありえない、人間が人間を半魚人に提供するな
んて、そんな人間いるわけないでしょ」
メイサの反論は絶叫に近い。
研究畑で今日まで来たので生々しい話は耐えられ
ないのだろう。
「私ハンターの中で不思議に思っていたことがあ
るの」
千秋が空を見据えながら、静かに言った。




