76話 千秋それに力也
苛立つメイサに
「おお、来られたようです」
銀グルーが手を一つ叩くと、周りのガラスの
檻は氷が崩れるように、ひしゃけた。
「さあ行きましょうか」
メイサが逃げるかもしれないのに、銀グールは
スタスタと先に歩き始めた。
「ちょっと待ってよ」
メイサの方もまったく逃げる気はないらしい。
慌てて銀グールの後を追った。
何にしても、気になる事だらけだ。
とりあえずは、ついて行くしかない。
ついでに周りを見渡してみた。
見慣れた実験器具に混ざって、まったく知らな
い機器もある。
どう贔屓目に見ても、グール側の研究が進んで
いるのは間違いない。
途中ガラスケースに入った半魚人が幾体も標本に
されていた。
始めてみる生き物だ。
何なんだ、あの生き物は。
それにしても、凄い研究設備だ。
ここで研究出来たら楽しいのになあ、ふとそんな
考えも頭に浮かぶが、よく考えてみればここはグ
ールの巣窟だ。
あの銀グールがあまりにも紳士的だから、つい
つい忘れてしまうが、とにかく敵にさらわれてい
る現実は忘れてはならない。
知りたいことさえ知れば、とにかく逃げる、そう
心に再確認させると、メイサは銀グールが先に入
って行った部屋のドアを開けた。
部屋の中には、銀グルーがもう一人の銀グールと
何やら話をしている。
ふとその横に目を向ければ、一組の男女が座って
いる。
「千秋、それに力也」
メイサは思わず叫んだ。




