70話 弾を奪うための誘拐か
「私の名前は、そうですね、仮に狐とでも申し
ておきましょうか」
「ふざけないでよ。本名を聞いているのよ」
「本名はメイサさんの考えをお聞きしてから名
乗ろうと思っていましてね」
しばらく考えていたメイサは
「私があなたの考えを受け入れなければ、殺そ
うというのね」
「面白い、そうです。そういう聡明な推理力を
聞きたかったのです。つまり賛成していただけ
れば本名も名乗りますし、ここから御出しも
できるんです」
「あなた私の知ってる人ね」
「鋭い、だんだん冴えてきましたよ、メイサさん」
「ふざけないで!」
「ふざけてはいませんよ。私はいたって真面目
なんですが」
「あなた何をしたいわけ?」
「それなんですよ。問題は」
銀グールが顔を近づけてきた。
「どうしてメイサさんを私がここにお連れしたと
思いますか」
「私を食べるためでしょ」
「あはは、どうしてもそこから離れませんか」
「当たり前でしょ、グールが人間を捕える理由
はそれしかないでしょ」
「メイサさんはグールについてどれほどの知識
をお持ちでしょうか」
「人を食べる畜生」
メイサは声を荒げた。
「他には?」
「それだけで十分。人を食べる獣
でもいいわ」
「私は冗談でお聞きしてるんじゃないんですよ。
科学者としてメイサさんのご見解をお聞きし
たいのです」
「そんな事を聞くためにわざわざ私を連れだし
たの、そうじゃないでしょ、本当は私があな
た達をやっつける弾を開発したから、だから
誘拐したんじゃないの、もしそうなら無駄よ。
開発のノウハウは私以外の研究者も知ってま
すから」
「浜田さんの事を仰ってるんですか」
メイサは唾をのんだ。
いきなり浜田の名を出してきた。
知っているんだ、浜田の事を。
この銀グール、どこまで情報を持っているんだ。
「その弾今お持ちですか」
メイサは狼狽えた。
一発だけポケットの中に入っている。
しまった、途中で捨てるべきだった。
この銀グール、やはり弾を奪うために誘拐したん
だ。
メイサはポケットの中の弾を握りしめた。
隙を見てどこかに隠さないと。




