66話 嫌いじゃない顔だしね
来なくていいと言われれば行きたくなるのが
人情だ。
誰がついて行くもんかと思っていた千秋だった
が、自分の(形態)が大きく変わった理由を知
りたくないかと言われれば、それは知りたいに
決まっている。
篠原雪の掌で踊らされているとわ
かっていても、ここは雪の提言を受け入れたく
なるのが人情だ。
力也も千秋のそんな心変わりを察知したのか、
千秋にすり寄り
「あの女の言う事は信じるな、あいつはグール
なんだぞ」
力也から遠ざかろうとする千秋の両肩を掴むと
「千秋、目を覚ませ、グルーなんだぞ、あの女は」
力也は力説する。
千秋はそんな力也を無視すると、雪に向き直り
「ついて行ってもいいけど条件が一つあるの」
力也を押しのけた。
「千秋!」
力也が絶叫した。
「なぁに条件って」
「この坊やも一緒に連れていくって条件」
「お、俺の事か」
力也は破顔したが、気付いたのか
「おい、誰が坊やなんだよ」
千秋を軽く小突いた。
しかし嬉しそうだ。
「力也は黙ってなさい、大体力也だって行くとこ
無いんでしょ」
「馬鹿野郎、俺は自分の事ぐらいどうにでもでき
るさ、俺は千秋の事が心配だから・・・」
「はいはい、わかりました」
千秋は力也を軽くあしらうと
「どう、この条件で」
「うーん。その坊やね」
雪は腕組みしながら力也を上から下まで嘗め回
すと、パチンと指を鳴らし
「ま、いいか、力ありそうだし、荷物運びには
利用できるかも」
反論しようとする力也に手を広げ、その発言を
止めると
「それに、案外可愛い顔してるし、嫌いじゃな
い顔だね、私」
力也に手を差し出した。
「あ、、あの、、その」
又、力也の顔が真っ赤になった。




