62話 すべて幻影なの
タンポポの種が散るように半魚人が弾けると
分身が全て消えてしまった。
驚いたのは力也と翔太だ。
切りつけていた半魚人が突然、目の前から消え
てしまったのだから。
「やったわね」
雪が華の頭を撫でながら近づいてきた。
その横に翔太も駆け寄ると、雪を胡散臭気に眺
め華を奪い取った。
「勝手に遊ぶなと言ってただろ」
翔太の剣幕に、華が泣きそうになると
「ちょっと、いくら兄さんだからってそんな一
方的な言い方ないでしょ、それにもとはと言
えば目を離したあんたにも原因があるでしょ」
千秋が詰め寄った。
「うるさい、ハンター野郎には関係ない」
「野郎じゃない、女よ私は、見ればわかるでし
ょ」
「うるさい、貧乳の癖に」
「何よその言い方、もう許さない」
翔太に飛びかかろうとする千秋を力也が慌て
て止めると
「おい、餓鬼、言っていい事と悪いことがあ
るぞ」
「俺は事実を言ったまでだ」
「まあ、そりゃ・・」
言いながらチラリ、千秋の胸を見た力也に
「力也、どこ見てんのよ、もう許さない、二人
とも」
「まあ、まあ、千秋さん、ここは我慢して」
雪は苦笑しながら顎で翔太に早く去るように
合図を送った。
それを機に翔太は、ぐずる華を半ば強引に引
っ張り、その場から去って行った。
そんな翔太の背中を見ながら
「彼ハンターなの?」
「知らないわよ、あんな糞野郎」
千秋のらしからぬ暴言に驚く雪に
「ハンターとしての能力はあるみたいです」
力也が雪に説明した。
「ふーん」
何か言いたげな雪だったが、フト気づいたのか、
翔太から視線を外すと
「どちらにしても、とりあえずは事態は収まっ
たわね」
千秋の肩を叩いた。
「母さんは」
思い出したように呟く千秋に
「さっきまでの事は全部幻影よ」
「幻影なんかじゃないわ、母さんの匂い確かに
してたし、あの半魚人言ってたもの、母さん
の心の核を食べて能力を得たって」
「だから、それが全てあの半魚人が作り出した
幻影なの」
雪はぴしゃりと言い切った。




