5話 グールよ覚悟しなさい
幽厳村正が立ち上がると同時に液状グール
は尾の部分を二つに割るとその先端で栗原
千秋の身体を摘まもうとした。
千秋はその触手をサラリとかわすと液状グ
ールの正面に立ち、グールを誘った。
赤ん坊を抱いた女をグールの視界から外そ
うとしているのだ。
「あのバカ、自分の身よりあの女の方を気
にしてやがる」
力也が見かねて手助けに行こうとすると
「力也、あの女の人を守って!」
言うが早いか再度液状グールにとびかかっ
て行った。
剣を何度も振りおろし、気を放つが、一度
バラバラになりはするが、液状グールの細
胞はすぐにもとに集まり回復してしてしまう。
「あのグール、核がどこにあるか見当がつか
ないわ」
一人呟き液状グールから離れると千秋はグー
ルと間合いを取った。
そんな千秋を見て幽厳村正は「ふん」と鼻
を鳴らすと又腰を下ろした。
千秋はゆっくり液状グールの全体を見渡した。
今の何度かの攻撃を思い返し、液状グールの
行動パターンを分析し、ある一つの結論にた
どり着いた。
「あのグールの核はあの辺だわ」
言うが早いか千秋は又グールに飛びかかった。
今度は目標がはっきりしている。
あのグールは核を二か所に分けている、だか
ら二か所同時に攻撃しないと効かないんだ。
千秋は一刺しで二か所同時に貫けるポイント
を見つけると、一気に剣を刺し、全身の気を
まとめて剣に放出した。
「ボム!」
鈍い音と共に液状グールは弾けた。
しかし今度の弾け方は今までとは違う。
それは粉みじんという表現が最適だろう。
液状グールの全体が、一度膨張し、限界まで
膨らむと、やがて凄いスピードで収縮し、こ
ぶし大ぐらいの大きさまで縮むと、小金の光
をその中から発し、やがて弾けた。
微塵もなく粉々に。
後には銀色に輝く小さな玉が二つ、屋上の残
るのみだった。
栗原千秋はその玉を手で摘まむと、少し薄黒い
球の方は投げ捨て、足で粉々に砕いた。
残った金色の玉は取り出したハンカチで包み込
むと、ソット胸ポケットに仕舞いこんだ。
「何度やっても後味が悪いわ。人間が小さな玉
だけになってしまうなんて今でも信じられな
い」
「グールは喰らった人間を小さな玉に凝縮し、
それを飴をしゃぶるように一か月かけて舐め
るんだ。今更何を感心しているんだ」
幽厳村正は言いつつ、少し驚いていた。
「千秋、お前日に日に強くなっていくが、何か
特殊な訓練でもしているのか」
「してないわよ、なに馬鹿な事言ってるのよ」
「お前の今の攻撃、すざまじかったぞ、それ
になんだあの気の分量、グールのあんな収
縮、俺は初めて見たぞ」
と、その時竹内力也が大声で叫んだ。
「キオつけろ!」
幽厳村正と栗原千秋は屋上の壊れた入り口を
振り返ると、そこから物凄い殺気の固まりが、
なだれ込んできた。