55話 松田翔太だ
「妹はどこだ」
男はしつこくたずねてきた。
「この状況がわからないの」
千秋は男を無視して半魚人の群れを眺めた。
本体を早く見つけないと力也が可哀想だ。
「君も男ならあの半魚人やっつけてきなさいよ、
半魚人が悪者だって事は知ってるんでしょ」
「だから妹は」
「うるさい!」
千秋は男を見た。
よく見ればまだ若い。
千秋と同じか、或は下かもしれない。
「あの半魚人をやっつけたら妹さんは出てくるわ
よ、今は安全なところに隠れているの」
「そ、そうか」
千秋の剣幕に驚いたのか男は、指輪から剣を出現
させた。
「君、ハンターなの」
「俺はハンターなんかじゃない」
「でもその武器は」
「知り合いからもらったんだ」
「もらうって、その武器はハンターの能力が無いと
使えないのよ」
「話は後だ」
男は半魚人の群れに飛び込もうとした。
その背を掴むと
「ちょい、君、名前ぐらい名乗ってから行きなさ
いよ」
「人の名前を聞きたいなら、まず自分の名前から
名乗るのが礼儀だろうが」
「そ、、」
確かに正論だ。
「栗原千秋です」
「松田翔太だ」
翔太は手を差し出した。
千秋も手を差し出すと、その手をがっしり握り
「妹は本当に安全なところにいるんだろうな」
雪の顔がチラリと浮かんだ。
まさかグールに預けているとは口が裂けても言
えない。
「も、勿論よ」
「じゃあ、わかった、あの兄ちゃんの助っ人に
行ってくる」
言うと同時に翔太は丘を駆け下って行った。




