52話 本能で見極めるしかないのよ
「雪さん何で潰すのよ、強くなれないじゃない
の」
千秋は慌てて砂浜に落ちた薬を取ろうとした
「あ、そのお薬、ただの興奮剤よ」
「え?」
意味が分からないまま、千秋は雪を仰ぎ見た。
「あなたが強くなったのはそのお薬のせいじゃ
ないって事、潜在的に眠っていた(別の力)
が発動されただけ、だからもうこのお薬は意
味がないの」
「だって、これ雪さんが強くなる薬だって」
「嘘も方便、現にあなた私の言葉信じて、眠っ
ていた力発動させたでしょう、私が驚いたの
は、あなたは、彼の力まで発動させたって事」
力也を指さした。
力也は相変わらず、獅子奮迅の活躍だ。
まるで力也と言う大きな岩壁を張っているように、
千もの半魚人を自分の後ろに一匹たりとも通させ
ない。
「彼薬飲んで、もう三分は有に経ってるわよ」
雪の言うとおりだ。
薬の効力は三分と聞いていた。
それがどうだ、もうあれから十分近くは経っている。
にも拘わらず、力也は武器を発動したままだ。
「じゃあ私達・・・」
「そう、本来の力が出ただけ、早く戦ってらっ
しゃい」
「はい」
千秋は明るく頷くと、力也の加勢に向かおうと
した。
「ちょっと、待ちなさい」
又雪が止めた。
「なんですか?」
「どう戦うつもりなの?」
「勿論あの半魚人を全滅させます!」
「残念、それでは倒せないわよ、あの海の化け
物は」
「どういう事ですか」
「あれは幻影」
「えっ」
千秋も最初はそう思った。しかし一匹一匹の半魚
人はそれぞれ独自に考え力也に挑みかかっている。
とても幻影には思えない。
「幻影と言うより分身ね」
「分身?」
「本体はあの中に一匹だけ、あの半魚人の特徴は、
一匹で自分の分身を千匹生み出すことができる
の、いわば、子供だと考えていいかも」
「千匹やっつけるのもいいけど、本体いわゆる親
ね、これを倒せば残りの分身もすべて死んじゃ
うって寸法」
千秋は後ろを振り返った。
力也が頑張っているが、それでも倒したのは百匹
にも満たないだろう。
雪の話が本当なら、確かに本体を倒す方が早い。
「本体はどうしたら見つけることができるの」
「それは口では言えないわ、感性、本能で見極め
るしかないのよ」




