51話 潰された薬瓶
「なんじゃこれは!」
力也が唸るのも無理はない。
あたりは半魚人で埋め尽くされていた。
「何匹いるんだ、どこから湧いてきたんだ、
こいつら」
百、二百の数ではない。
千に近い干魚人が海岸を埋め尽くしている。
「幻影?」
千秋がそう思うのも無理はない。
これだけの数、隠れていたにしても、そうそう
こんな形で出現できるはずが無い。
しかし力也に飛びかかって来た半魚人はそれぞ
れが独自の攻撃を仕掛けている。
力也は飛びかかって来た半魚人を数十匹あっと
いう間に切り捨てたが、何せ数が多い。
またたく間に、囲まれてしまった。
「幻影じゃないみたい」
千秋は舌打ちすると、華を地面に下ろした。
さすがに力也一人では千に近い半魚人を相手に
するのは無理だ、というより千秋が出て行こう
と焼石に水なのだが。
しかしこのままではまずい。
とにかく千秋も戦う必要がある。
問題は、華をどこに隠すかだ。
力也と千秋はしかたがないにしても、この幼い女の
子だけはなんとか守りたい。
千秋は華を隠す場所を探した。
突然、ぬうと、篠原雪の顔が千秋の前に現れた。
「きゃ!」
雪を見ると
「雪さん驚かさないでください」
「ふふ、困っているようね」
「笑い事じゃないわ、早くしないと力也が・
・・」
「彼の体力は人並み外れているみたい。少々
はあの半魚人たちと遊んでいても大丈夫よ」
「あれ、半魚人と言うの?」
「どう見ても半魚人でしょ」
「何なのあれ」
「そんな事後でいいでしょ、今はとにかくここ
を何とかするのが先でしょ」
言いながらも笑っている。
危機感がまったくない。
千もの半魚人に囲まれていると言うにこの余裕
は何なんだ。
「この子は私が見ているわ、あなたは早く彼の
手助けをしてらっしゃい」
ちゃっかり華は雪と手をつないでいる。
「でも・・・」
華を雪に預けることに少し戸惑いもある。
何と言っても雪はグールだ。
もし・・・。
「大丈夫よ、食べたりしないから」
雪の口から核心の言葉を発せられ、千秋の方が
戸惑った。
「あ、そんなつもりで」
千秋の顔は真っ赤だ。
千秋は薬瓶を出すと薬を飲もうとしたが、突然
横から雪が取り上げると、手のひらで握り潰し
た。
「な、なにをするの雪さん!」




