4話 ダメ効かないわ
液状グールは、残った女の干からびた身体
をまるでカニを食いちぎるように、両腕、
両足を引きちぎり、口の中に押し込んでい
った。
口をもぐもぐさせ咀嚼すると、今度は女が着
ていた衣服を吐き出した。
「もういいでしょう!」
耐えきれず千秋が飛びかかろうとするのを再
度幽厳村正が止めた。
「あと5分待つんだ。食べた物を消化用の袋
に溜め込むのにあと数分かかる、それまで
は辛抱するんだ。」
と、その時だった。
屋上に通じるドアが突然開くと赤ん坊を抱い
た女が転がるように飛び込んできた。
三人は目を合わすと女を凝視した。
「違う」
「違う」
千秋と力也は同時に叫んだ。
「人間よ、その人は」
ハンターは感覚でグールと人間を区分けでき
る。一説には匂いとも言われているが匂いで
はない。
人間たちはこのハンターの能力をどうにかし
て解明しようとしてきたが、どうしても解明
できなかった。
匂いに準ずる本能の何かがハンターに反応す
るのだろうが、解明までには至っていない。
グールは通常、食欲が満たされると新しい獲
物が飛び込んできても襲うことはないが、グ
ール化した時は獲物と言うより防衛本能で幾
人もの人間を襲うことがある。
今がまさにその状態だ。
動いたのは栗原千秋だった。
長い髪をなびかせ、液状化したグールに飛び
かかると剣の切っ先をグールに突き刺した。
剣が刺さると同時に、千秋は体中の気を一点
に集めそれを剣に導いた。
グールは不死身だ。
身体をいくつに切り裂こうと、直ぐに生え揃
える。
内臓を切り割いても、その傷口は時間の経過
とともに塞がっていく。
人間が脳以外のパーツを自由に交換できるよ
うに、グールは体そのものを自己回復できる
のだ。
グールを倒すには、回復途上にある細胞レベ
ルの核にハンターの気を放射するしか消滅さ
せることはできない。
ハンターが持っている武器は、気をグールの
細胞の核に放射するための武器と言っていい。
千秋の攻撃を受けたグールは、千秋の気を細
胞の核に放射させられたが、ぐらりとして、
瞬間身体が分裂したが、又すぐもとの身体に
蘇生してしまった。
「ちぃ!効かないわ」
「遠すぎるし、気の持続時間が短かすぎるん
だ」
幽厳村正がすくと立ち上がった。