48話 海見ると落ち着くの
千秋は店の外に出た。
潮風が心地良い。
ハンター組織のビルに帰らないでもいいという
開放感が、追われていると言う恐怖感に勝って
いる。
と言うより恐怖感そのものを全く感じないのだ。
後ろから力也が慌てて追って来た。
千秋が力也を巻くとでも思ったのだろう。
「ねえ力也」
千秋は振り返った。
「あんたやっぱ、反乱軍に帰りなさい、これ
持って」
千秋は雪からもらった薬瓶を力也に差し出し
た。
「なんだこれは」
「雪さんからもらった強くなる薬」
「これを俺にくれてどうしろと言うんだ」
「この薬解析して反乱軍で使うのよ」
力也は黙った。
「今のままじゃ反乱軍はいつまでたってもハ
ンター」に勝てそうにないでしょ。だから
この薬・・・」
「千秋はどうするんだ」
「私はもう戦わない」
「だから言っただろう、幽厳が放っておか
ないって」
「その時はその時よ」
「無理だよ」
「何が無理なの」
「千秋は反乱軍を過大評価している。反乱軍
と名乗っているけど、そんなたいそうな代
物じゃないんだ、ハンターが嫌で脱走した
奴らが集まって、お互いの身を守りあって
るだけのグループだ」
「だったらよけいにこの薬」
「だから、その薬解析できるような科学者も、
施設もないんだ」
「嘘!」
「本当だ。俺と千秋がこうしているのと、反
乱軍もさほど変わらないグループなんだ」
そうか、だから幽厳は反乱軍をあまり気には
していなかったのか。
「そう、じゃしかたないか」
元々、千秋もあまり本気で言ったわけではな
いので、直ぐに意見を撤回すると、もう一度
潮の空気を吸い込んだ。
美味しい。
久しぶりに嗅ぐ潮の香で千秋は急に海を見た
くなった。
「ねえ、力也海見に行きましょうか」
「お前何のんきな事言ってるんだ」
「いいじゃないの、私海見ると落ち着くのよ、
ね、行きましょ」
千秋は海岸に向かって走り始めていた




