39話 皮肉な世界
「主原料は何なんだ?」
グールに効くという弾を眺めながら幽厳がメイ
サに視線を移した。
グールに変異した時の、グールのミトコンドリ
ア」
「なんだそれは」
「まあ、一種の細胞みたいなものね」
「しかしグール化した時のミトなんとかなん
てどうやってとるんだ」
「それが問題なの。でも一人のグールから採
ったミトコンドリアの培養に成功したから、
弾は無尽蔵に作ることはできるは」
「そりゃ凄い」
「浜田さんのお蔭よ。彼が培養に成功しなか
ったら、量産化はできず、特殊な弾どまりだ
ったの」
「お前と言い、浜田と言い、よく人間界に残っ
ていたもんだな。こんな優秀な科学者が」
グール化変異が起きて10年。
変異の様相がわかって来た。
何かに秀でた人間がグールになってしまった
事は皆経験則で感じていた。
だから優秀な科学者、技術者、芸術家、文学
者達は皆グール化してしまい、人間界の(進歩)
が停滞してしまっていた。
メイサや浜田のような優秀な科学者が人間とし
て残っていることが奇跡にすら思える程、科学
者不足になっていた。
「浜田さんがこの研究の詳細を記録しているか
ら特許として申請すれば」
「それには及ばん。この世界に特許がどうのと
いう論理はもう通用しない、見てみろ、人間
界そのものの社会性がふっとんでいるじゃな
いか」
確かにそうだ。
グールに食べられる恐怖から社会全体が閉塞し
てしまっていた。
ここ5年ほど、社会生活が戻ってきたようになっ
たが、それとて狭い範囲での社会生活で、人類
はほぼ自給自足の生活に戻っていた。
経済と言う概念が、グール出現により壊滅し、
自給自足生活が生活の基盤になっていた。
強奪を取り締まるべき警察組織自体が形骸化し
今では実質社会の治安はハンター組織が運営し
ていた。
強い者は弱い者から搾取する。
弱い者は強い者からおこぼれを頂戴する。
強さこそが社会秩序の原点に戻っていたのだ。
人間社会をズタズタにしたのがグールであるのに、
人類が人類として最低限の社会生活を営む最大の
結束力が、また、グールがいるからという、なん
とも皮肉な結果に陥っている。




