36話 薬一粒で強くなれるのか?
「科学者としてのお前の話を聞きたいんだ」
「科学者として?」
幽厳村正が真面目な顔をして聞いてくること
にロクな話はない。そうは思ってもそれを表
情に出すほどメイサも愚かではない。
「天下の幽厳村正様が私ゴトキ女に教えを乞
うなんて、余程困ってるの」
「茶化すな、俺たちの能力を薬一粒で活性化
させるってことが、科学の力でできるのか」
本当に、まともな話だ。
メイサは少し驚きながらも
「精神を活性化させ、一時的に能力を増すこと
はできるけど、程度問題ね」
「たとえば、12名のハンターを一撃で蹴散らす
パワーをつける薬とか」
メイサはしばらく、顎に手をやると
「空想の世界ではあり得るかもしれないけど現
実の世界では無理と思うわ、もし仮にできた
としても、人間の肉体ではそのパワーに耐え
得るほど肉体を維持することはできないし、
ただ、、」
「ただ、何だ」
「グールならあり得るかもしれないわね」
「グールならあり得るのか」
幽厳村正の瞳が輝いた。
「グールも平時は普通の人間でしょ、でもグー
ル化した時だけ、人間の力の何十倍もの力が
一時的に付与されるじゃないの、あれと同じ
原理だとしたら、ありえない話ではないわね」
幽厳村の光った瞳に気付いたメイサは
「でも、答えはノーよ。たった一粒の薬で、例
えば人間をグールにするほどの即効性を持た
せることなど、今の科学の力では無理」
「無理か、やはり、無理なんだ」
「言っとくけど、これはあくまでも人間を対象
にした話よ。グールの場合がどうかは、私に
はわからないわ。人間でグールの特性につい
て研究してるのはごくわずかしかいないのだ
から」
そのごく少ない科学者の一人が黒木メイサなの
だが。
黒木メイサの科学者としての業績は輝かしい。
人間界におけるグール研究者の第一人者と言っ
て間違いはない。
ハンターが使う武器を指輪の中に凝縮して押し
込み、ハンターの気で武器化する技術を考案し
たのも黒木メイサだった。
他にも、ハンターが使用するグール用の武器は
ほぼメイサの考案だ。
幽厳村正がメイサだけには逆らえないのもこの
弱みがあるからだ。




