27話 人は変われるんだ
力也に肩を貸し、千秋は気を辺りに張りめぐ
らせた。
4チーム、12名のハンター達の輪はもうそこま
で来ている。
屋上だから、いつの間にか6人ずつ、二グルー
プに集団を変えていた。
彼らが一斉に突入してくるのは時間の問題だ。
千秋も薬を一粒取り出すと、力也の目にかざし
「まず私がこの薬を飲んで突破口を作るから、
力也もこの薬を飲んで私の後を着いてきて、
間違っても戦ってはだめよ」
「馬鹿野郎、俺だって戦える」
苦しそうに息を吐いている。
このままではとても戦える状態ではない。
振るえる指先で、薬剤を今にも潰しそうだ。
「戦うなというのは力也を心配して言ってるん
じゃないの、もしその薬の効力が私が思って
いる通りだったとしたら、追っ手を皆殺しに
しかねないから言ってるの、いい、戦うって
事は、この薬を飲んだら、相手を殺すって事
に匹敵するから、絶対戦っちゃあだめよ」
よくわからないまま、力也はうなずいた。
千秋から無理やり渡された薬を指先で摘まむと
千秋と薬を交互に見つめた。
唾を飲み込むと
「飲めばいいんだな、この薬を」
「信じるのよ、信じられなければ私の闘い方を
見て、必ず信じられるはず。この薬を飲めば
強くなれるのよ、それもとんでもなく」
言いながら千秋は、ゆっくりと力也をコンクリ
ートの上に座らせた。
「飲めば痛みは遠のくし、やがて力がお腹の底
から湧いてくる感じがするの、そう感じたら
しめたもの。力也の身体は完全に回復してる
はず、いいわかったわね」
ポンポンと力也の肩を叩いた。
12名のハンター達がゆっくりと囲みの輪を縮め
てきた。
今では一つの大きな塊で進んでくる。
どれもこれも、見知った顔ばかりだ。
なのに殺気が体中からみなぎっている。
千秋は急に怒りがわいてきた。
それよ、その殺気なのよ、私が大嫌いなのは。
あんた達が疑わなければいけないのは、今発し
てるその殺気の異常さなのよ!
千秋にはわかって来た。
グール退治に名を変え、ハンター達は人殺しを
楽しんでいる。
そしてその殺人の異常さに気が付かずどんどん
エスカレートしていく殺人願望
狂っている。
人を喰らうグールも異常ならば、そのグールを
倒すハンター達も異常なのだ。
人間世界はおかしい。
何かが狂っている。
いや狂いだしている。
ハンターは決して人類の救世主なんかではない。
むしろ今や疫病神なんだ。
千秋は薬を口に放り込むと力也と目を合わせた。
ペンダントを掴み小さく
「人は変われるんだ」
叫ぶと同時にハンター達の中に突っ込んで行った。




