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247話 メイサ対亜門

「ちょっと、近寄らないでよ」


メイサはマーヤが作り出した亜空間の端まで

逃げると透明な壁にもたれ手で亜門を追い払

った。

まるで犬を扱う様に、シッシッと。


さすがに、亜門は禿げた頭を叩いて苦笑して

いる。

しかし怒りはしない。


周りの球体は遠目で見れば薄い紫色。

しかし近づけば透明だ。

その先には景色が見えるが、透明の壁に阻ま

れ抜け出せない。

柔らかなガラスが張られている感じだ。


今ここには、千秋がいない。

力也もいない。

それだけでメイサはもう泣きだしそうだ。

それに加えて目の前には禿げ頭の亜門源兵が

首をひねりながらメイサに近づいてくる。


ハゲ、デブ、チビ

メイサは昔から大嫌いだった。

勿論冗談で言っていたのだが、いざそのデブ

ハゲが目の前に現れるとまずは先入観で嫌い

が宿った。

テカテカ光る禿げ頭で、気味悪さが倍増し、

大柄な体から滲む汗で生理的に嫌いが増幅した。


亜門に罪はない。

恐怖と亜門が合体して亜門が嫌いになった。

とにかく亜門は嫌だ。

逃げなければ。

襲われる?

そんな恐怖以前に、とにかく嫌いだから逃げ

ないと、そんな意味不明なパニックに陥って

いた。


一人で化け物と戦うなんて初めてだ。

そのパニックが亜門大嫌いに全て降り注いだ。


対する亜門は驚いていた。

メイサの逃げ足が凄いのだ。

亜門が近づくその瞬間亜門の手の届かないギ

リギリの距離を保って逃げ回る。

勿論多少の手加減はしているが、それを差し

引いても鮮やかな逃げ技だ。


菜々緒やマーヤが使う八雲紫やぐもゆかりの術ではない。

あれは次元を突き破る技だから、瞬間目の前

から消える。

メイサが使っているのは、紛れもなく逃げだ。

運動神経だけで亜門の追跡をすり抜けている。

この狭い球体の中でだ。

驚くべき反射神経だ。


面白い子だ。

亜門はニタリ笑うと、己の頭を叩いた。

メイサの反射神経を試したくなったのだ。

少し本気を出して追いかけてみた。

やはりするりとメイサはすり抜ける。

今度は本気で挑んで見たが、メイサは難なく

逃げ切った。


「こ、これは」


冗談であしらえる反射神経ではない。

亜門の攻撃スピードはその図体から想像できな

いくらいに素早い。

術を使わず、単に肉体だけの反射神経ならば、

亜門は当然、菜々緒よりも早い。

その亜門の攻撃をメイサはことごとく交わしている。

キャ、キャと悲鳴を上げながら。

見ようによっては、亜門がからかわれている

ようにも見える。


「ならば」


亜門は八雲紫やぐもゆかりの術でメイサに近づいた。

ギョットした表情を見せたメイサだったが、

亜門がメイサのわきに近づいた瞬間、メイサ

もそのまま逃げうせた。

肉体の反射神経のみでだ。

本能が術を上回っている。


恐怖にかられ、逃げる事にのみ神経を集中させて

の反射神経だろうが、この能力は捨てがたい。

というか、使い方さえマスターすれば強力な攻撃

の手助けにもなる。

八雲紫やぐもゆかりの術を反射神経だけで交わすことなど

無理な話だ。

それを目の前の女は、自覚せず披露している。

恐るべき能力だ。


「これは、、これは、、」


亜門は、禿げ頭を叩くと、その場に胡坐をかいて

座った。

メイサがきょとんと、亜門を見ている。

先ほどまで追いかけていたのが、今は胡坐をかい

て動こうとしない。


疲れたのか?

あるいは何か作戦でも・・・


メイサはピタリ壁際まで退いた。

亜門のニタリ顔が気味悪くて仕方がない。

メイサを見ては「参った、参った」と嬉しそうに

首をひねっている。


じっくり目れば、亜門の眼差しは優しい。

どう見てもメイサに襲いかかろうとする目つき

ではない。


「あんた疲れたの」


メイサが問うと


「もっと追いかけていいか」


「ダメよ、もう嫌、大体私なんか美味しくない

 わよ、骨皮筋衛門(ほねかわすじえもんだし、まあ、多少胸はある

 けど・・」


ここにきて、まだ自慢話を盛り込む余裕がある。

どこまで本気で怖がっているのかわからない。


「何で俺がお前を食べると思ったんだ」


「だって、あんたの顔、人食べそうな顔じゃん」


やはり、根性は座っているようだ。

土壇場になって開き直れる者は、実力以上の力

を出せる。

亜門は多くの戦いの中から経験則で学んできた。

目の前のメイサは、怖がってはいるがその裏に

ある種諦観も兼ね備えている。

この諦観は理性の裏返しでもある。


「これは本物だ」


亜門はまた、頭を叩いた。


「なあ、女、ここに座ってくれないか」


亜門はメイサに自分の前を指さした。


「嫌よ、あんたの顔は女を襲う顔だから」


「襲わない」


「信じられない」


「誓う」


「誓うって、何に誓うのよ」


「神だ」


一瞬黙ったメイサは思わず噴き出した。


「神にって、グールのあんたが神に誓うなんて、

 おかしすぎるわよ」


「あはは、そうだわな、今更神もないわな」


亜門も大声をたてて笑った。


「それに神なんて、一番信じられない存在よ、

 見てよ今のこの世の中」


気が付けば、メイサは亜門の前まで歩いて来て

いた。


「じゃあ、黒木財閥に誓うと言えば」


亜門の一言にメイサの動きが止まった。

飄々(ひょうひょう)とした顔から血の気が一気に引くと「嘘!」

小さく呟き口に手を当てた。


「まあ、座れや」


亜門が自分の前をまた、手でたたいた。

釣られるようにメイサが亜門の前に座ると


「やはり、黒木メイサ、否、お嬢様でしたか」


「どうゆうこと」


「あなたは黒木財閥のお嬢様なんですね」


「く、黒木財閥はとっくの昔に没落したわ」


狼狽えるメイサに


「お嬢様、メイサ殿、お嬢様」


突然亜門がメイサに抱き付いてきた。

物凄いスピードだ。

メイサを追いかけていた時のスピードとは段

違いに早い。


「ちょ、ちょっと、何するのよ」


思わず亜門をどけようとしたメイサだったが

亜門の両目からとめどなく涙が流れ出ているの

を見ると、黙ってしまった。

決して厭らしい抱き付き方ではない。

赤子を抱くような、慈愛に満ちた抱擁だ。


「ちょ、ちょっと、禿げ頭さん、よしてよ、

 何するのよ」


しかし、メイサの語勢は弱い。

無理矢理はがすに戸惑う亜門の動作だ。


「お嬢様・・・」


亜門の涙は止まらない。


「メイサ殿、お嬢様、私です、亜門源兵でござ

 います」


「そう言われても」


顔を背けながらメイサは呟いた。


「お嬢様は覚えておられぬやもしれませんが、

 メイサ様が生まれて一年、私の生涯のご主

 人様はメイサ様と決めておりましたが、突

 然の解雇。今の車屋家に移動となりました

 が、その後黒木家が憎き幽厳家の策略で倒

 産した事をお聞きし、メイサ様がどうされ

 たか心を痛めておりましたが、おお、この

 ような立派なお嬢様におなりになられ、亜

 門はもう、歓喜に堪えません」


「く、苦しい・・・」


「お嬢様・・」


「し、死ぬ」


あまりの力強さにメイサの顔が真っ赤になっ

て来た。

突然ぐったりしたメイサに亜門は慌てて手を

緩めると


「お、お嬢様、大丈夫ですか」


「ざ、ふざけんじゃないわよ」


メイサは平手で亜門の頭を思い切りひっぱたいた。


「はあ、はあ、はあ、私を絞め殺す気!」


「おお、お嬢様、つい興奮して」


「興奮も何もないわよ、いい加減にしてよ、ちょ

 っと油断したらこれなんだから」


「すみません、お嬢様、本当にすみません」


両方の目からは涙が、鼻からは鼻汁が、もう汚い

ったらありゃしない。


「いいから、寄らないでよ、鼻汁がつくでしょうが」


「お、お嬢様」


また亜門がメイサを抱きしめると、今度は顔をす

り寄せてきた。


「だ、ダメ、止めなさい、これ、亜門とやら、止

 めなさい、止めろと言ってるでしょうに、止めな

 いと、貴様ぶち殺すぞ」


メイサが怒った。

亜門を振りほどくと、今度は思い切り拳固で頭を

どついた。

しかし亜門の頭は鉄のように硬い。

叩いた方の手が痛いだけだ。


「痛い!、なによこの頭、もうムカつく、ナイフ

 でも突き刺してやろうかしら」


メイサは手を口で吹きながら痛みをこらえると、

こんどは思い切り亜門の膝を蹴りあげた。

膝も又石だ。

目から火花を飛び出さすと、メイサは片足を上

げながら、地面に倒れ込んだ。


「なによその身体、人間の身体じゃないわよ、

 まったく、もう」


「お嬢様」


また亜門がすり寄って来た。


「ストップ!」


メイサは亜門の顔にてのひらを当て止

めた。

これ以上美貌を鼻汁で台無しにされてはかなわ

ない。


「それ以上私に近づいたら、こ、ろ、す」


やっと亜門も正気に戻ったのか、涙をぬぐい

ながら


「御意」


深く首を垂れた。


「よろしい、いいですか、あなたは私の執事に

 なるはずだった人なんですね」


「御意」


「いわば、私の召使・・・」


ゆっくり亜門に顔を近づけると


「召使なんでしょ」


「ぎょ、御意」


メイサはニタリと笑った。


「今も召使なの」


「あ、いや、召使ではなく、執事でございます」


「召使も、執事も同じような物です」


「それは」


「あ、逆らうわけ、私に、主人の私に」


「めっそうもない」


亜門は慌てて両手を振って釈明した。


「そう、あなた、えーと、何と言ったかしら」


「亜門、亜門源兵と申します」


「じゃあ、亜門ちゃん、説明してくれる、もう

 少し詳しく」


「詳しくと申されると?」


「幽厳家の事よ、今亜門ちゃん言ったでしょ、

 私の家を潰したのが幽厳家だと」


「そうでございます、幽厳家の策略で黒家財閥

 は解体の憂き目にあったのです」


「そこのところを、もっと詳しく」


メイサは亜門の前に座ると、今度は亜門に自分

の前に座るよう指で座る位置を指さした。


「聞かせて頂戴、我が家解体の顛末話を」

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