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244話 力也対菜々緒

どうなっているんだ、これは。

力也はあたりを見渡した。景色は前と変わら

ない。ただ周りには誰もいないのだ。


千秋とメイサはどこに行ってしまったんだ。

辺りを探し回っていると上空から女の声がした。


「力也ちゃん、リキヤちゃん」


見上げれば上空に菜々緒の美しい顔が浮かん

でいる

菜々緒は笑っていた。


「な、何なんだ、ここは」


「うふ、マーヤが作ってくれた私達のお部屋よ」


突然菜々緒の顔が力也の前に現れた。


「おう!」


力也の前に降りてきたのだ。

今にも顔がくっつきそうだ。

力也は慌てて間合いを広げると


「ち、千秋達はどこだ、どこに連れて行った

 んだ」


「大丈夫よあの二人は。亜門とマーヤが相手

 をしているから、決して退屈はしていないわ

 よ」


「何で俺をここに連れてきたんだ」


力也が何を喋っても菜々緒は嬉しそうに笑っ

ている。


「千秋達の事なら何も喋らんぞ」


「あら、二人のどちらかが力也君の良い人な

 の?」


菜々緒が大袈裟に拗ねて見せた。


「そんなんじゃない、あの二人は大事な仲間な

 だけだ」


「へー、そう。仲間なだけなんだ」


菜々緒が又、顔を近づけてきた。

突然顔が目の前に現れる。

移動する気配すら感じさせない。

考えてみれば、物凄い能力だ。


甘い香りと、色気たっぷりの顔は力也の戦闘能

力を溶かせてしまう。

力也は思わず唾を飲み込んだ。

女の方からこんなに攻めてこられたのは生ま

れて初めてだ。

頭がクラクラしてしかたがない。

どう対応して良いのかさっぱりわからないのだ。


「ひょっとして、力也君千秋ちゃんの事が好き

 なの?」


「な、馴れ馴れしく千秋にちゃんなんかつけて

 呼ぶな」


「ほうら、やっぱ好きなんだ」


「俺を千秋達の所に戻せ」


「だから言ったでしょ。私力也君と少しお話が

 したいと」


「俺の事も力也君などと呼ぶな!」


「じゃあ力也にちゃんにしましょうか」


「俺をおちょくるな」


「あ、力也ちゃん顔が真っ赤よ」


「う、五月蠅い!俺は話しなどしたくな・・・」


突然菜々緒が力也の手を握った。

思わず離そうとするが、凄い力だ。離れない。


「ねえ、力也ちゃんあなたに兄弟はいるの、あ、

 いるわ、いたいた、でもあなたは里子に出さ

 れ」


「放せ!」


力也は今度は全力で菜々緒の手を剥ぎ取った。

ズバリ言い当てられている。

菜々緒の手は剥したが、まだあの柔らかな感触

が残っている。

力は強いが菜々緒の手はとても柔らかかったのだ。


「兄さんとは会ったことあるの?」


しつこく菜々緒が聞いてくる。


「そんな事お前に関係ないだろうが」


「それが大ありなのよ」


菜々緒はまた力也の手を握ろうとした。

慌てて力也は手を背中に隠した。

手を握られると自分の心を読みとられるような

錯覚を感じたのだ。

勿論錯覚ではないのだが・・・


菜々緒はそんな力也を愛おしそうに眺めながら


「なるほど、心の機微に関しては疎そうだけど、

 戦いの本能は兄さんと同じでありそうね」


「俺には兄などいない」


「幼い頃別れた兄さんの事よ」


「うるさい、なんでお前がそんな事知ってるん

 だ」


「ほうら、やっぱいるじゃないの」


「俺の事は放っておけ、千秋とメイサの所に俺

 を返すんだ」


「ふふ、その短気、血は争えないわね」


菜々緒は一人ほくそ笑むと


「戦わない?あたしと」


「ん?」


「だから私と戦おうと言ってるのよ、あ、

 大丈夫、ちゃんと手加減はするから、少し

 ぐらい怪我しても私回復魔法使えるから、

 治してあげられるし、ね、だから戦いまし

 ょう」


「俺は女とは戦わん」


「うわ、力也ちゃんカッコイイ、あの人とそっ

 くりだわ、性質たち振る舞いが」


「あの人?」


「兄さんの事よ。ま、それはおいといて、さあ、

 戦いましょ、戦いながら、気心知りあいまし

 ょうね」


「言ったろ、俺は女とは戦わない」


「あら、私が怖いの、力也ちゃんらしくない言

 い訳ね、怖いなら怖いと正直に言いなさいよ」


「怖かない、ただ女とは戦わない、それが俺の

 ポリーシーなだけだ」


「嘘、ハンターの時、女のグールを何人も倒し

 たじゃないの」


「グールは別だ。グールに男女の区別はない」


「じゃあいいじゃないの。私もグールよ、なら

 戦えるでしょ」


力也は狼狽えた。

確かにそうだ。

しかし人間がグール化した時菜々緒のような美

しい姿のままではなかった。

醜く口を開け、よだれを垂らした化け物だった。

殺すに躊躇ためらいいなど生まれなかった。

相手は怪物なんだから。


「しかたないわね、白状するわ、私ね、さっ

 きね、力也ちゃんに触れて力也ちゃんの弱点

 見つけちゃったの」


「俺の弱点?」


「力也ちゃん優しすぎるの、特に女、子供に

 は、だからその辺を突くと簡単に挑発に乗

 っちゃうのよね」


菜々緒は微笑みながら


「でも好きよ私、そんな力也ちゃんが、君の兄

 さんとそっくり」


「何を言われても俺は戦わない」


「あらいいのかしら力也ちゃん、そんなこと言

 って、考えてごらんなさい、今力也ちゃんが

 ここに私と二人でいる、周りには誰もいない、

 おかしいとは思わない?」


そんな事は菜々緒に言われなくともさっきから

おかしいと思っている。


「この空間はマーヤが作り出した空間で出られ

 ないのよ、どこまでいってもこの空間には力

 也ちゃんと私しかいないの」


「なら早くここから出せ」


「でね、当然他の二人も同じような空間で、私

 の仲間達とお遊びしてると、そうは思わない、

 力也ちゃんは」


力也の顔色が変わった。


「さあて、千秋ちゃんは誰と遊んでいるのかな、

 私の執事の亜門かな、亜門なら大変、彼手加

 減って事できないタイプだから、ひょっとし

 たら殺しちゃうかもしれないわよ、千秋ちゃ

 んか、メイサさん」


「俺を脅しているのか」


「ほーら、顔色が変わった、やっぱ、力也ちゃ

 んの弱点くすぐると、すぐ効果が表れるわよ

 ね」


「千秋やメイサに手を出す奴は俺が許さん」


「だったら早くここから出ないといけないわよ」


力也の身体から一瞬紫の炎が上がった。


「あ、本気モードになりそう、やったやった」


菜々緒が手を叩いて喜んだ。

やおら、指を一本上げると


「こうしましょ、力也君だから大おまけの大サ

 ービス、私の身体に少しでも触れる事が出来

 たら力也君の勝、触れる事が出来なかったら

 私の勝、時間は、うーん、そうね、5分、あ、

 5分じゃ無理っぽいから10分にしてあげる。

 どう、この条件で勝負しましょうか」


「なんだ、その条件」


力也の顔が歪んだ。

舐められるのは大嫌いだ。

それも女に。


「10分じゃ短すぎたかしら」


菜々緒のさらなる挑発に


「普通の勝負でいい。どちらかが気絶するまで

 の勝負だ」


「あら、やっと戦う気になってくれたんだ」


力也は、菜々緒と同じように指を一本たてると


「一分だ、一分でお前を気絶させてやる」


早口でまくしたてた。

身体からは紫の陽炎が漂っている。


「うー素敵、力也ちゃん、かっこいい」


「舐めるのもそこまでだ」


力也は一気に間合いを詰めると菜々緒に拳を振

り上げた。

しかし、力也の拳は空を切り、気が付けば菜々

緒はピタリ力也の後ろで笑っている。


「そうそう、これを用意しなくちゃ」


パチンと菜々緒が指先を鳴らすと空中に大きな

時計が出現した。


「まずは力也ちゃんが言った一分、そして私が

 言った10分にメモリを合わせて」


空中で逆立ちしながら力也に顔を近づけると


「いいかなスタートしちゃって」


「ちぇ!」


舌打ちすると力也は両手で菜々緒を掴もうとした

が、その瞬間菜々緒の姿が又消えた。

辺りを見渡せば、出現させた時計の縁で手を振り

ながら笑っている。


「条件言うの忘れてたわ、私が勝ったらね」


菜々緒から笑顔が消えると


「あなたの千秋ちゃんとメイサちゃん死んでもら

 います」


時計から菜々緒の姿がまた、フット消えた。

瞬間、時計が時を刻み始めた。

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