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243話  黒い靄(もや) 戦いの始まり

今まで黙っていた若い男がゆっくり前に出てきた。

まだ若い。

年の頃なら十五、六歳。

サラサラ髪の下には大きな瞳が潤んでいる。

一見すれば女の子と見間違えそうな華奢な身体だ。

黒い服に身を包み、腕組みをしたまま千秋を睨んでいる。


 ゆっくり、千秋を上から下まで眺めると、チラリ力也を睨

みその後ろでへっぴり腰で顔だけ出しているメイサも舐める

とクスリ笑った。

自分の笑顔が魅力的だと知ってる笑い方だ。


「君達が噂の三人組なんですね」


声まで甘い。

車屋菜々緒は、前に出た若い男を睨んだが、すぐ視線を力也

に戻した。


「菜々緒さん」


若い男は笑顔を湛えながら菜々緒を呼んだ。


「彼とは、知り合いなんですか?」


力也を指さした。

菜々緒があまりに力也を見るから気になって仕方がないの

だろう。


「ううん、知らないわよ。マーヤは下がってなさい」


菜々緒は腕で若い男を後ろに下げながら


「ここは私に任せといて」


マーヤの頭をポンポン叩いた。

子ども扱いだ。


「もう!」


菜々緒の手を頭から払いのけると、マーヤは苦笑しながら

亜門源兵の横に戻った。

源兵も苦笑している。

菜々緒には逆らえない、そんな顔だ。


菜々緒は小首をかしげ、もう一度力也をチラ見すると直ぐそ

の視線を千秋に戻した。

唇を人差し指でゆっくり触りながら


「どう、自己紹介しない」


千秋に提案した。


「自己紹介?」


「そうよ。自己紹介」


又、菜々緒の視線は力也に向いた。


「どうして自己紹介する必要があるの?」


「あら、初対面の人とはご挨拶し合うって、これ常識じゃ

 ないの」


「人をおびき出しておいてその言いぐさはないだろう」


力也がしびれを切らして一歩前に出ると、同時に亜門源兵が

菜々緒を守るように前に出てきた。


「この美しい女性は車屋菜々緒様、車屋財閥のお嬢様です」


源兵が菜々緒の言葉を引き継ぎ、ついでに菜々緒の紹介を

始めた。


車屋財閥。

聞いたことがある。

幽玄村正の家、幽厳財閥と同じくらいに有名な財閥だ。


「彼は亜門源兵あもんげんべい私の執事、でこのサラサ

 ラ髪の僕ちゃんが、猪能マーヤ、まだ16歳のお子ちゃまな

 の。我が家の書生の一人とでも言っておこうかな」


車屋菜々緒は残り二人の男の紹介をした。

当然次はあなた方が自己紹介をする番でしょ、そう言いたげ

に黙っていたが、何も言わない千秋に


「あなたが千秋さん、えっと栗原千秋さんよね」


微笑んで見せた。


「目的は何なの」


千秋は菜々緒を睨みつけた。


「目的はね、、あっその前に、君は何て言う名前なの」


千秋の問いかけを無視して、源兵の巨体越しに力也に白い

歯を見せた。

菜々緒の笑顔もマーヤと同じように、自分の魅力を知って

いる笑顔だ。


その魅力に力也は、まんまとはまっている。

口を開け、菜々緒に釘づけだ。

力也らしいと言えばそれまでだが、美しい女に問いかけ

られたらすぐこれだ。


「お、俺、おれじゃない、僕は力也、竹内力也と言います」


直立不動になり、敬語で、ぺこりとお辞儀までする始末だ。

 メイサが後ろから力也の尻をつついている。

敵じゃないか、何を浮ついているんだと、小声でつぶやいて

いる。


「へー力也君って言うんだ。竹内力也、強そうな名前ね、

 いえ絶対強いわよね、ね、強いでしょ」


「ああ、まあ」


パコーン!

千秋が力也の頭をはたいた。

馬鹿馬鹿しく見ていられない。


「痛い」


デレデレしている力也を強引にひっこめると


「だから目的は何かと聞いているのよ」


後ろでは力也が、今度はメイサにも蹴り上げられ小さく

悲鳴を上げていた。


「で、力也君って今幾つなの」


背伸びしながら菜々緒が、千秋越しに聞いてきた。


「二十六歳です」


メイサに蹴られながらも、条件反射で答える力也に


「メイサ、力也を黙らせなさい」


「わかってるわよ」


後ろでメイサが力也の首を絞めている。

苦しむ力也の姿を好ましそうに見ていた菜々緒は


「うーん、たまんない、決めた、マーヤ、私は力也君と戦う

 から私と力也君をフィールドに囲ってくれる」


マーヤは亜門源兵を見た。源兵が何か言おうとするのを


「爺、あなたは来なくていいから、私は力也君と二人きりで

 戦うから、残りの二人をあなた達がリサーチしてくれる」


先に亜門源兵の言葉を遮った。

依頼と言うより命令といった口調だ。


「どうしますか?」


「お嬢様を一人にするわけにはいきません」


「爺、来てはダメです。これはお願ではなく命令です、車屋

 菜々緒の命令です、絶対着いてきちゃだめよ、マーヤ早く

 私達二人をフィールドに囲いなさい」


今度は言葉で命令してきた。


「あらら・・・源兵さん、諦めてください」


苦笑しながら、マーヤは指先から黒いもやを二つ立て

続けに出した。もやは力也と菜々緒を包み込むと、や

がて空中で一つに合体し、そのまま急速に縮むと、大気にめ

くり込むように消失してしまった。


「源兵さんはどちらと戦いたいですか?」


「戦う?」


メイサが千秋の手を握った。

力也が突然いなくなり、残った二人が戦うなどと恐ろしいこ

とを言っている。


「俺はどちらでもいい」


源兵は苦虫を潰している。

菜々緒の事が気になってしかたがないんだろう。


「菜々緒さんはマッチョマンが好きだからなあ」


「馬鹿な事を言うな」


源兵がマーヤを睨みつけると


「そうですよね、菜々緒さんはあれで、考えて物事進める

 タイプですから、何か理由があるんでしょうね。じゃあ、

 源兵さんは彼女を」


マーヤは亜門源兵と黒木メイサにも同じように黒いもや

を包み込むと消滅させた。


「キャ!」


メイサは小さな悲鳴と共に消えてしまった。


「後は君と僕だけですね」


マーヤは嬉しそうだ。

悪ガキが新しいおもちゃをあてがわれたような好奇な眼差しだ。


「どこへ運んだの、二人を」


消え失せた四人の気配を探しながら、千秋はマーヤと間合いを

取った。

次は自分が同じようにされるとのは間違いない。


「すぐわかりますよ、あなたもすぐ行きますから」


マーヤはまた、黒いもやも出すと今度は千秋と自分を

包み込み同じように、消滅させようとしたが、そのモヤ

を千秋が跳ね飛ばした。


「嘘でしょ」


驚くマーヤに


「二人を戻しなさい」


マーヤを怒鳴りつけた。

しかし、マーヤから笑顔は消えない。

千秋に黒いモヤを弾き飛ばされても全く動じていない。


「なるほど、千秋さんが三人の中でも一番凄いと聞いてまし

 たが、今のがその片鱗ですよね」


三人?

誰の事なんだ。

千秋、、メイサ、力也?


訝しむ千秋に


「菜々緒さんが興味を持たれた、筋肉男は三人の中に入って

 いませんよ」


千秋の心を見透かすようにマーヤが囁いた。


「三人とはね、篠原雪さん、そしてあなたと、もう一人の女性、

 この三人の女性の事なんですよ」


「雪さんが?」


千秋の眉がピクリと動いた。

自分と、メイサはわかるが、何で雪さんが・・・


「別にここで戦ってもいいですが、やはりフィールドは特別に

 用意されたところがいいですよね、ですから、もう一度」


マーヤは再び指先に黒いもやをいくつも作るとそれを

千秋に投げた。

前と同じように弾き飛ばそうとした千秋だったが、今度はもや

あまりにも柔らかく、そのまま体を包み込むと、一気に千秋の

身体を覆いつくした。


気が付けば千秋はもやの中にいた。


「さあ、行きましょうか、私が作った戦いの場に)


マーヤから笑いが消えた。

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