23話 新しい旅立ち
「それにしてもあいつ遅すぎないか」
力也が又舌打ちをした。
いつもは二人に気を使いすぐ通信をやめるのだ
が今日は中々戻ってこない。
もう一度何気に耳を澄ましてみた。
「じゃあ千秋を捕えるのか」
突然幽厳村正の声が耳に入って来た。
慌てて力也をみるが、ぶつぶつ言っているだけ
で聞こえている様子は見えない。
(私だけ?)
薬の後遺症か?
呟きながらももう一度耳を澄ませた。
幽厳の言っていた話の内容が気になる。
「しかしカメラに映った映像だけで千秋がグー
ルのスパイだと決めつけるのは早すぎやしな
いか」
千秋はビルの屋上を見渡した。
ある、ある。
ビルの四隅にはきっちりカメラが据え付けられ
ている。
本部の連中は、千秋達の闘いを、このカメラで
見ていたのだ。
で、千秋が篠原雪からもらった、薬瓶の事もき
っちりみていたのだ。
それを貰ったことで、千秋がグールのスパイだ
と勘ぐる方もどうかしているが、千秋にも弱み
がある。
幽厳村正に薬の件を言う時間は十分にあった。
それを言っていないのは意識的と捉えられても
不思議はない。
本当に言いたくなかったのだから、そこを責め
られれば申し開きが出来ない。
「流石に俺の手で千秋を捕えることはできん、
誰かみつくろってここにこさせろ、そいつら
に千秋を捕まえさせてくれ」
千秋の身体がビクンと揺れた。
私を捕まえる。
あいつらの拷問を私が受ける。
冗談じゃない!
千秋は、キッと唇を噛みしめた。
冷たい男だとは思っていたが、ここまでドライと
は、呆れて物も言えない。
三年間一緒に戦ってきた仲間に対する仕打ちが
これか。
「千秋どうしたんだ、顔が真っ青だぞ」
力也の声を無視して又、耳を澄ました。
「ついでに力也も捕えろ。反乱軍のアジトがわか
ったのならもう利用価値はない、アジトを探す
ためにわざわざ反乱軍のスパイだったあいつを
配下にしたんだからな」
(反乱軍のスパイ?)
力也の間の抜けた顔を眺めて、千秋は慌てて頭を
振った。
「力也あんた反乱軍なの?」
いきなりの問いかけに、力也の顔からも一瞬血の
気が引いた。
「何を、馬鹿な、その、俺は、あのだな」
もう支離滅裂だ。
こんな時の力也は図星を言い当てられた時の狼狽だ。
「反乱軍なのね」
千秋は決めつけると
「あの、おれは、反乱軍じゃ」
「黙って聞きなさい!」
千秋は一喝した




