239話 隠し扉
千秋は力也にもう一度確認した。
「本当なのそれ?」
千秋が眠そうに目をこすっている横で、メイサ
もブツブツ独り言を言いながら千秋の肩にもた
れ、だれ気味についてくる。
話はこうだ。
丸山の襲撃も終わり、雪の一言で各自別室に
戻った。
千秋も母との会話を楽しみ、やっと眠りについ
たころ、力也が千秋を揺り起こしたのだ。
三人は続きの部屋をあてがわれており、力也は
千秋の隣部屋、その力也が千秋の部屋に飛び込
ん出来たのだ。
普通ならば、千秋も力也を突き飛ばし部屋から
追い出すのだが、力也の様子が変なのだ。
力也が言うにはトイレに立った時サキの母親、
ゆりが外に出て行くのを見たと言うのだ。
ゆりは千秋達が助けた赤ん坊を抱いた親子だが、
一瞬の油断で元木博士に、赤ん坊のサキがさら
われた。
そのサキを救いに行くため、こうして雪達と
元木博士の研究所に行こうとしているのだが、
母親のゆりが外に出て行ったと言う。
そもそも、ゆりがこのアジトに来ているとは
雪達から聞いていない。
ゆりは研究所で伊集院博士と一緒にいるはずで
力也がここで見るべき人ではない。
それを力也が見たと言う。
幻覚ではない。その証拠に雪の背中に発信機を
張りつけたと言う。
携帯を見れば確かに移動している。
ゆりでないにしても、ゆりに似た誰かがいたこ
とは間違いない。
ただそれだけの話なら、千秋も力也の話を無視
した。問題はゆりが壁に作られた隠し扉から外
に出て行ったと言うのだ。
確かにゆいの位置信号は建物の外にいる事を示
している。
壁に隠し扉?
聞いていない。
隠し扉は、丸山が襲ってきた場所だ。
あの時最悪、藤木は隠し扉から逃げる事が出来
たかもしれない。
扉の事は、千秋達に知らせてくれてもいいはず
だ。
放っておこうとも思ったが、丸山の件もある。
このまま黙って見過ごすこともできない。
とりあえず隠し扉の有無ぐらいは調べようと
思ったのだ。
「行きましょ」
「雪さんへの報告はどうする?」
「黙っていましょ」
千秋は言下に答えた。
力也も雪には何か含むところがあるのか何も
言わず頷いた。
「でも、メイサは起こしましょ」
雪に多少の不信感を覚えた今、メイサをここに
残して置くのは危険だ。
寝ぼけ眼のメイサを無理やり叩き起
こし、千秋達は隠し扉がある壁まで来た。
「ここなの」
尋ねる千秋に
「ほら」
力也が壁の一部を手で押すと、それは奥に凹み
直接外に出る事が出来た。
「なあにこれ」
そのまま外に出た三人は、自動的に閉まった扉
を見て唖然とした。
簡単に外に出ることができる。
出たはいいが、オートロックなんだろう隠し扉
は外からは全く動かない。
「ねえ、何があったのよ」
ようやく目が覚めたのだろう。
メイサがうるさく聞いてきた。
まだ自分が研究所から出たことには気づいてい
ないようだ。




