238話 母との会話
母がひょっり意識の中に現れた。
いつも唐突に現れる。
笑っている。
いや、そう認識できるといった方がいいのだろ
うか。
千秋は起き上がろうとしたが母が
「そのまま」
と伝えてきた。
千秋の動作が停止している時は、異種ミトコン
ドリア達も活動を停止しているので出てきやす
いと言う。
まだまだ千秋の中は(敵)だらけだと言う。
だから自由に出てはこれない。
今母を守ってくれている異種ミトコンドリアは
(回復)のミトコンドリアだと言う。
道理で、何の苦労もなくいきなり回復力のレベ
ルが跳ね上がったはずだ。
粉微塵になった藤木の細胞を集め、元の状態に
戻す回復技術など千秋は持っていなかったのだ
から。
「どうしたらいいの」
千秋は自分の苦境を母に相談した。
人の心を読力などいらない。
こんな能力など放ってしまいたい。
触れる度に相手の心が見えるなんて、地獄じ
ゃないか。
「千秋らしいわね」
母は笑いながら
「そんなの、雪さんと同じことすればいいで
しょ」
「雪さんと?」
「心を読めないようシールドを張れば済むこ
とでしょ」
母は事も無げに言う。
「相互遮断の薄いシールドを体中に張っていれば、
外からの攻撃は勿論、内側からのスキャンも回
避できるじゃないの」
「あ、そうか」
千秋は頷いた。
確かにそうだ。
シールドはハンターの時から使えた。
ハンター特有の能力と言っていい。
ただ、そのシールド力には個人差があったが千秋
のシールド力はハンター時代からトップクラスだ
った。
シールドで心を読む能力が止められれば最高だ。
「でも四六時中シールドを張っていたら疲れる
じゃないの」
「おばかさんね、もう千秋はそんな心配しなくて
もいいのよ、一度シールドを張れば、解除した
いと思わない限りズートその状態が続くのよ」
「嘘!」
驚く千秋に
「元々シールドとはそうゆうものよ」
「じゃあ、シールドを張れば誰かに触れてもも
う相手の気持ちが流れ込んでくることは無い
の」
「そうよ」
「よかった」
千秋は本気で喜んだ。
相手の気持ちを知りたい時だけ、シールドを外
せば読み取ることができるんだ、これって、超
ラッキーなアイテムじゃん。
「呆れた子ね、さっきまで疫病神みたいに思っ
ていたのに、使い方がわかると豹変するのね」
「だってそうじゃない。相手の気持ちがわかる
のよ、、好かれているか・・」
「千秋」
母が叱責した。
「はい!」
「その能力はそんな使い方してはいけません、
恋愛にずるすれば、必ずしっぺ返しがきます
よ」
「私何もそんなつもりで・・・」
ぶつぶつ言いながらも、千秋は諦めた。
母には千秋の心が読めるのだ。
「母さん」
「なによ」
「ひどいじゃないの、偉そうな事言って、母さ
んは私の心の中いつでも覗けるんでしょ」
「そりゃしかたないわよ」
「バリア張ってやるから」
「残念でした、母さんはもう千秋の一部になっ
ているのだから、バリアは効きません」
「ひどい、ずるい、インチキだ」
千秋は頭の中の母に向かって叫んだ。
しかし、叫びながら、千秋は微笑んでいた。
心を読まれてもいい。
母はこうして自分の近くにいてくれる、それ
だけでもう十分だ。
母はとにかく、千秋の中にいるんだから。




