236話 不安はぬぐえない
千秋は、メイサと力也に二人が寝ていた時に
起きた事をかいつまんで話した。
メイサ達が気絶した後、丸山が四十人のグール
を引き連れ襲ってきたこと。
藤木が丸山と戦い、雪が四十人のグールを一手
に引き受け相手にした事。
藤木が危うく殺られそうになった時、丸山が
突然去って行った。ここはさすがに正直には言
えなかった。言ったところで、メイサ達が信じる
はずが無い。
藤木が手も足も出なかった丸山を、千秋がいと
も簡単にあしらったとは、千秋自身ですら信じ
られないのだから。
何故丸山が襲ってきたのか、おかしいじゃない
か、明日元木博士に会いに行くのに、その元木
博士の片腕たる丸山が襲ってくる理由がわから
ん。
力也の言い分はもっともだ。
千秋は丸山が幽厳村正に操られていた可能性が
あることを、言おうか言うまいか悩んだ。
幽玄村正は今や、三人共通の敵だ。
その情報は共有していたほうがいい。
特にメイサはそうだ。
力也と千秋は幽厳村正とチームを組み、彼の
冷徹さを知っている。
しかしメイサは違う。
メイサはまだ、幽厳村正を信じている。
言葉の端端からそれがうかがわれる。
今ここで幽厳村正の名を出すことは果たしてメ
イサの為になるのだろうか。むしろ三人の仲に
亀裂を生じさせるだけではないのか。
結局千秋は話すのをやめた。
力也にしても、幽厳村正を憎む気持ちは強い。
これ以上幽厳村正の悪いことを言い連らねて
も、憎しみが増すだけだ。
結局マイナスになる。
突然メイサが聞いてきた。
自分達は一体何者なんだと。
人間なのかグールなのかと。
力也も顔をしかめた。
常に頭の中で思い悩んでいた事だ。
「聞いた話によると・・・」
千秋も悩んでいた。
ハンターは人間だ。
自分達は人間として、人を喰うグール退治をし
てきた。
それが今はどうだ。
ハンターはグールだと言う。
元々グールなのが、たまたま症状が現れなかった
だけで、グールに違いはない。
なら、千秋達も人を喰らわないと生きて行けない
のか。
しかし、未だに人を喰らったことは無いし、そ
の気も起きていない。
雪によれば、グールは確かに人を喰らわないとい
けていけないグールもいる。しかし、喰わずとも
生きていけるグールもいる。
異種ミトコンドリアを持つグールは人を食べずとも
生きていけるグールだと言う。
いわゆるS級と呼ばれるグールは人は食べないのだ
と。
千秋もメイサも力也もS級グールだ。
異種ミトコンドリアを持っている。
だから人は食べなくとも生きていける。
大丈夫なのだが・・・
しかし、不安はぬぐえない。




