235話 知りたくない真実
「とにかく、皆さん、明日は早いです、もう寝
ましょう」
雪は皆にそう言うと、自ら歩み始めた。
取りつく隙が無い。
皆、何か言いたげだが、傷だらけの雪には何も
聞ける雰囲気ではなかった。
「皆さんの部屋は御存じですよね、雪さんもあ
あ言っておられますから、皆さん今日はこれ
でお開きにしましょう」
藤木も手を叩き三人に散会を促した。
千秋に何か言いたげではあるが、他の二人の
手前何も言えない。
雪がいなくなり、藤木がそう言えばもうその
言葉に従うしかない。
千秋達も、割り当てられた部屋に戻る事にし
た。
メイサと力也の表情にはあきらかに不満が残
ったままだ。
千秋は割り当てられた個室に戻ると、コーヒ
ーを入れベッドの根来に腰を下ろし
た。
大きく伸びをし、肩を回した。
コキコキと骨の鳴る音がした。
しばらくすると、思った通りメイサと力也が
訪ねてきた。
二人があのまま自室で寝るなど考えられなか
ったからだ。
「コーヒー入れてあるわよ」
「うわ、凄い、なんでわかったの、私達が来
るなんて」
「長い付き合いだもの」
「一体何があったか教えてくれよ」
力也がコーヒを飲みながら、千秋の前にあるソ
ファーに腰を下ろした。
説明を聞くまでは出て行く気がないらしい。
「誰が襲ってきたの?」
メイサも興味津々だ。
こうなったらもう話すしかない。
本当は千秋はもう寝たかった。
自分の中の異種ミトコンドリア二つを取り込む
ことは出来たが、疲労感は半端じゃない。
特に雪に回復を施そうとしてバリヤに跳ねられ
た時からの疲労感が半端ではない。
雪のバリアにはひょっとしたら、何か毒に似た
ものが仕込まれていたのではないだろうかと、
そんな気もしているのだ。
それに取り込んだ異種ミトコンドリアに聞きた
いこともあった。
触れる度、相手の心が無条件で入って来られた
らたまったものじゃない。
人の心の中は、わからないから楽しく付き合え
るのだ。わかってしまえば、ギスギスして、し
かたがない。
触れても心を読まない方法が無いか知りたいの
だ。でないと、人に触れられなくなる。そうな
ったら千秋の心が壊れてしまいそうだ。
真実は、わからないから生きて行けるのだ。
知ってしまえば、その先には空虚しか生まれな
いではないか。




