232話 目を覚ました藤木
気まずい空気が雪と千秋の間に流れた。
千秋は雪から目線を外し、どう雪の質問に答
えようかと戸惑っている時、気絶していた藤
木から呻き声が聞こえた。
思わず(救われた)と思った千秋は慌てて藤
木に近づいたが、瞬間立ち止まった。
触れれば又藤木の心が読めてしまうのでは、い
や、それ以前に藤木が雪と同じようにバリヤを
張っていれば・・
躊躇が千秋の行動をおし止めた。
千秋が何もしないのを見て、雪がゆっくり
藤木を抱き起こすと、千秋をチラ見し、藤木
に尋ねた。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
藤木は、頭を振りながら周囲を見渡すと、そ
こに雪と千秋以外いない事を確認し
「丸山は?」
「私が来た時はもう、いなかったわ」
雪が又、鋭い視線で千秋を見た。
千秋に対しなんらかの不信感を抱いているよ
うだ。
「丸山は?」
身体を見渡し、どこにも怪我の跡が無いのを
確認しながら、記憶を呼び戻しているようだ。
「逃げちゃいました」
「逃げた?」
千秋の言葉に驚くと
「丸山が逃げたですって?」
「そうみたいよ」
千秋のあっけらかんとした答えに雪は苦笑し
ながら頷いた。
確かに逃げたのは間違いない。
問題は何故逃げたか、なのだが。
「何故丸山は逃げたか、知っていますか?」
再度千秋に確認する藤木に
「私を見て、ビビったみたい」
嘘は言っていない。
本当の事だ。
「千秋さんを見て、ビビった?」
「多分私があまり弱すぎるので、戦ったら殺して
しまうと思ったんじゃないですか」
これは嘘だ。
嘘を言うしかあるまい。咄嗟に思いついた嘘だ。
雪の眉がピクンと動いた。
「そうか、千秋さんを殺してしまうと元木博士に
叱られますからね」
千秋の咄嗟の答えで藤木は納得しているようだ。
「藤木君は丸山とは戦ったの」
「ええ、確かぼろ負けに負けたはずなんですが、
見れば傷がどこにもありません、雪さんが回
復してくださったのですか」
血まみれの雪を見て、雪が自分の怪我を回復させず、
まずは藤木を回復させてくれたと思ったのだろう。
「いいえ、私が来た時にはあなたは無傷だったわよ、
床で気絶はしていたけれど」
「おかしいなあ?」
藤木は頭をひねっている。
丸山に瀕死の重傷を負わされた記憶が微かに残って
いるのだが、それ以降の記憶が曖昧なのだ。




