231話 不穏な空気
雪は現れると同時に、片膝をついた。
あちこちから血が流れ出ている。
自分で回復の術をかけることすらできないぐ
らい弱っているようだ。
丸山が言った通り、相当激しい戦いをしてき
たのだろう。
チラり床に倒れている藤木を見、千秋に視線を
移した。
千秋を舐めるよう全身を。
一瞬、驚きの表情をチラリ浮かべたが、すぐそ
の表情を隠した。
いやそんな気がしただけかもしれない。
「丸山智己はどうしたの?」
「逃げました」
千秋は目をぱちくりして答えた。
「逃げたって?どうして」
「どうしてなんでしょう」
ここは、丸山の言う事を信じアバウトにぼや
かした。
丸山が言った「雪を信じすぎるな!」の言葉が
引っかかって正直に言えない。
「あの男が逃げるなんて、ありえないわ、藤木
君が追い出したの?」
そうだと言おうと思ったが、藤木の意識が戻れ
ばそんな嘘はすぐばれる。
咄嗟に
「私が戦って追い返しました」
「あなたが?」
言いながら雪は苦笑した。
千秋の能力がそこまで強くなっているとはまだ
思わないのだろう。
真実が、逆に冗談になった。
「ふふ、じゃあ、そうしとくわ」
雪にやっと微笑みが戻った。
雪はゆっくり立ち上がったが、またよろけた。
慌てて千秋が雪を抱き止めたが、そこで激しい
火花が飛び散り、二人は大きく弾け飛んだ。
壁でしこたま腰を打った千秋が、腰をさすりな
がら雪を見ると雪の表情が一変していた。
驚愕という文字がぴったりなほどの驚きようだ。
「千秋ちゃん・・・」
「痛い、なあに今の、雷でも落ったのかしら」
「千秋ちゃん」
雪の眼光は鋭い。
まるで敵を見るような目つきだ。
千秋に何か変化が起きていることを感じ取っ
たようだ。
「どうしたの?雪さん」
「あ、、ううん、なんでもないの」
「今のはなあに?」
「私にもわからないわ」
言いながら、雪は千秋と距離を取った。
雪は自分の心をスキャンされないようにバリア
を常に張っていた。伊集院実朝にその能力があ
り、伊集院もバリアを張る事を許可していた。
そのバリアが千秋に発動され、お互いが弾け飛
んだのだ。
「雪さん回復しましょうか」
「ううん、いいわ、これぐらい自分で回復でき
るから」
「でも、とっても疲れているみたいよ」
「大丈夫、それより藤木君の容体を見て」
「藤木さんは大丈夫ですよ、私が気絶させ・
・あっ」
千秋は慌てて口を押えた。
藤木を気絶させたことは言ってはいけなかった。
言えば丸山と戦った事も言わなければならなく
なる。
「千秋ちゃん、何かあったの」
流石、雪だ。
千秋の身に何かが起こったことを見抜いている。
又、丸山の言葉が千秋の頭に蘇った。
{雪も信用するな」
まさか・・・
千秋はゆっくり篠原雪の視線を外した。




