230話 信じられるのは己自身だけなんだ
「とにかく栗原、感謝する。どうやら俺は確
かに幽厳村正に操られていた気がする。こ
の先何が起きるかは知らないが、俺にでき
る事があれば、栗原、俺はお前に受けた恩
は返す、ただし一度だけだがな」
大声で笑いながら丸山は己の両頬をバシバシ
叩くと
「そいつにもよろしく言っといてくれ、早く
俺に追いつけとな」
藤木を指さし笑っている。
「どうしたの?」
丸山が急にどこかへ行こうとしだした。
不思議に思い尋ねると
「忘れてもらっちゃあ困る、俺は栗原を殺し
に来たんだぞ、いわば敵だ、もうすぐここ
の女主が来る。あの姉ちゃんとは
相性が悪くてな、俺の顔を見たら問答無用
で襲いかかってくる、その前に逃げなくち
ゃな」
雪の事を言ってるのだろう。
と言う事は雪は反対側で襲ってきたグール達
を全員やっつけた事になる。
「俺が合図して、仲間を戻らせたのさ、いく
ら篠原雪でも四十人のS級グールを全滅さ
せられやしないさ、おそらく彼女もへとへ
とのはずだ、まあ、労わってやれ、おっ、
それとだな、栗原!」
丸山は千秋の耳に口を近づけた。
黄ばんだ歯も今はあまり気にならないから不
思議だ。
「強くなったことを篠原には言うな」
「どうしてよ」
「敵だった俺が栗原の見方をするかもしれな
いように、篠原もいつ栗原の敵になるかも
しれんからな」
千秋は眉をひそめた。
雪が千秋達の敵になるなんて考えられない。
幾度も命を救ってもらっている。
ありえない話だ。
「その顔は信じてない顔だな、まあいい。と
にかく信じられるのは己だけだと思ってお
け、俺が言うのも変だが、グール化が始ま
って以来、皆心がねじれちまった。今日の
友は明日の敵、そんな事が平気でまかり通
るご時世だ、気をつけろってことだ」
「雪さんはいい人です。あの人は裏切ったり
しません」
「なら、試してみな、栗原に授かった心を読
む能力で、そうすればわかるはずだ、俺の
言ってる事がまんざら嘘で無いことが」
千秋はハッとした。
そうだ、そうなんだ。
自分には相手の心を読みとる能力が身につい
たんだ。丸山に言われたように、雪に触れさ
えすれば、雪の本心が覗けるかも知れない。
でも・・・いいんだろうか。
何か後ろめたい気もする。
その時初めて自分のこの能力の怖さに気が付
いた。
この能力はひょっとして・・・
「栗原、俺はもう行く、いいか、俺は信じな
くていい、ただ、篠原の事も無条件で信じ
るのはやめておけ、何度も言う、この世で
信じられるのは己自身だけなんだと」
言い捨て丸山の姿が消えると、同時にそこに
雪の姿が現れた。




