22話 離脱の予感
力也を近くの壊れたコンクリートの上に座らせ
ゆっくり肩を回しながら、千秋は何気に階段の
方に耳を澄ませた。
突然幽厳村正の話し声が聞こえてきた。
「嘘!」
「ん?何か言ったか」
怪訝そうに見る力也に慌てて手を振ると、もう
一度耳を澄ませてみた。
聞こえない。
空耳だったのだろうか。
「あいつの秘密主義気に入らんな。あの電話で
又どこかのハンターがスパイ容疑でしょっぴか
れるんだぞ」
「仕方ないでしょ、それが彼の仕事でもあるんだ
から」
「要職は親父の方だ」
「彼だって国家安全管理省の長官よ、立派な要職
じゃないの」
「親父のコネだし、それに管理省設置を言いだし
たのはあいつからだ。要はスパイ狩りを自分に
やらしてくれと親父自らに売り込んだって噂だ
ぜ」
「噂は噂よ、噂に惑わされるなんてハンター失
格よ」
「ふふ、相変わらず千秋は心が強いんだなあ」
「そんなことないわよ」
「あいつのお蔭で俺たちまでスパイ狩りの仲
間と勘違いされ、同僚たちから白い目で見
られること、千秋は平気なのか」
確かに力也の言う通りだ。
幽厳村正と同じチーム、いや幽厳村正の配下と
言うだけで誰もが皆千秋達を敬遠する。
最初の頃はロッカーの中に爬虫類やら汚物を
置いていく嫌がらせを何度も受けたが、それ
が幽厳村正の耳に入ると、徹底的な犯人探しが
行われ、犯人と特定された三人のハンターが処
刑された。
文字通り処刑である。
高々子供のイタズラ程度の事で、同僚を三人も
抹殺してしまったのだ。
今思い出しても胸糞の悪くなる事件だった。
あの事件をきっかけに、どのハンター達も千秋
と力也には手出しをしなくなった。
バックに幽厳村正がついていると勘違いしたの
だろう。
「あいつの残虐性は、グールよりも人間に向け
る方が俺は怖い気がする」
「何を突然おかしなことを言いだすのよ」
「じゃあ千秋は知ってるのか、あいつがスパイ
狩りするとき使っている邪神隊の事を」
「ううん、知らないわ」
「俺達にもあの野郎、気を許しちゃいないんだ、
きっと俺達もひょっとしたらスパイじゃない
かと疑っているんだぜ」
「まさか」
千秋は笑って見せたが、あの幽厳なら思いかね
ない。
「ハンターなんかしなきゃいいんだよ、あいつ
は。スパイ狩り専属で頑張っていればいいん
だ」
グールにいいようにやられた腹いせか、今日の
力也の毒舌は凄まじい。
そうか、力也も千秋と同じことを思っていたん
だ。
ふとしたきっかけで力也の本心を知った千秋は
また雪のささやきを思い出した。
「いづれ私達の仲間になるんだから」
慌てて頭を振った。




