226話 雷ミトコンドリア
丸山の灰色液状に、白い千秋の液状がまとわ
りつくように囲い込んでいた。
灰色の液状は、白い液状に少しずつ弾けて溶け
て行き、その大きさが半分ぐらいにまでなって
いた。
このまま行けば丸山そのものが白色液状に食い
尽くされてしまう。
丸山は自分の核を、白い液状から逃れるだけで
必死だった。
勝負あったどころの騒ぎではない。
勝負を仕掛ける事さえできぬまま取り込まれて
しまった。
実力差とはいえ、あまりにも桁違いの強さだ。
これまでか!そう思い諦めかけた時、女の声が
響いた。
声の主は今自分を喰らいつくそうとしている栗
原千秋だ。
「逃げなさい、早く」
丸山は理解できなかった。
丸山を喰いつくしているのが千秋なのに、逃げ
ろと言う。
意味が分からない。
「早く逃げなさい、このままだとあなた死んで
しまうわよ」
「何を訳のわからんことを言ってるんだ、俺を喰
ってるのはお前だろうが」
「私はあんたみたいな、臭い物食べないわよ」
「く、臭い!」
丸山の灰色液状はブルンと震えた。
臭いとは何事だ!
「だから早く逃げなさいって」
「逃げられたらとっくの昔に逃げてるさ、俺を捕
えて離さないのはお前だろうが」
「液状をやめるの、直ぐ、元の身体に戻りなさい
、戻る事はできるでしょ」
「戻るのも難しい、お前がどうにかしたらいいじゃ
ないか」
丸山はだんだん腹が立ってきた。
この小娘、訳の分からんことを並び立て、俺をおち
ょくってるのか・・・
「そう、その調子、怒りで気力を増幅しなさい、そ
して液状から元の身体に戻るのよ、そうしたら離
れる事ができるはずだから」
丸山の怒りは頂点に達した。
こんなにこけにされたことは無い。
この女に、ここまでコケにされては生きていけん。
もう頭に来た。
ええい、どうなってもいい。
爆発だ、己の体ごと爆発してやる・・・
灰色の液状から湯気が立ち昇ると、やがてそれ
は煮えたぎり、粘りある飴状になった。
突然、白色の液状が、灰色の液状から離脱した。
「今よ、早く元に戻りなさい」
千秋の声と同時に、灰色液状の丸山は、人間の姿
に戻った。
あちこちの肌が溶けて流れているが、とにかく
人間らしい体に戻った。
「ほら見なさい、戻れたでしょ」
言うと千秋の白色液状も、人間の姿に戻ると、外観
を整え千秋の姿になった。
「よかった、おかげで私も元に戻れたわ、あっちょ
っとまっててね」
膝を着き、荒い呼吸の丸山に微笑むと、千秋は手首を
握りしめると、手を上にあげ「放電!」と奇声を上
げた。
母がこっそり教えてくれた、異種ミトコンドリア成
敗の方法だ。
千秋の手首が銀色に光ると、手首が電球のように
光り輝き、その光が一気に体の表面を伝い地面に流
れた。
千秋自身が避雷針になり、身体に帯電した、異種ミ
トコンドリアの雷エネルギーを全て放電したのだ。
「ふぅ」
千秋も両手を着いて、荒い息をしている。
丸山を襲っていた雷ミトコンドリア千秋の力を削
ぎ、今自分の門下に導く事に成功したのだ。




