225話 破滅
ミトコンドリア千秋は千秋の意識が回復する
と同時に、それまでの記憶はリセットされる
と言う。
それと引き換えに千秋は、今後相手に触れる
だけで相手の気持ちを吸い取る事が出来るよ
うになる。
何やら、嫌な予感がする能力だ。
しかし、もう手放すことはできない。
元々は千秋の潜在能力だったのだから。
「じゃあ、私がS級グールになってから触れ
た相手の思惑があなたの中に全てあると言
うわけ」
「S級グールになってからではない。グール
化が始まったその時からだ」
「嘘・・・」
「しかし今、それをお前に伝えている時間は無い」
「何故よ」
「お前の意識が無くなってる今、お前の肉体を
操って丸山と闘っているミトコンドリアは丸
山を間違いなく殺す」
千秋は思い出した。
藤木をズタズタにした丸山、臭い臭い
を吐き出す丸山、千秋はそいつと闘っている最
中に気を失ったのだ。
その丸山とは、又違うミトコンドリア千秋が闘
っていると言う。
「いいじゃないの、あんな奴、殺されたって」
「よくない理由が二つある」
言下に否定された。
「二つも」
「一つは、丸山を異種ミトコンドリアがお前の
意思なしで殺せば、その異種ミトコンドリア
の力が増幅され、お前が乗っ取られる可能性
が出てくること」
「もう一つは?」
「丸山を殺してはいけない。あの男はこの先お
前の仲間になり重要な役目を担う男になるか
らだ」
「なあに、あんた未来まで予言できるの?」
「全ては幽厳村正から抜いた情報だ。あの男は
小ずるい、この世界を破壊してもなお、己だ
けが生き延びればいいと、そう思う男だ、こ
の先やがて世界は破滅する。破滅した後、お
前たちは破滅者と、そう、幽厳村正を操る奴
らと闘わなければならない、その時に駒は一
つでも多い方がいいのだ、丸山は貴重な戦力
になる、殺してはダメだ、だからお前は直ぐ
に意識を取り戻し、今お前の肉体を乗っ取っ
ている異種ミトコンドリアを取り込まなけれ
ばいけない」
「ちょ、ちょっと待ってよ、世界が破滅するっ
て、それどうゆうことなの」
「今それをお前が知ってもかえって混乱するだ
けだ、それに時間が無い、私はお前の軍門に
下る、さすれば意識は直ぐ戻る、さあ、早く
意識を戻し、異種ミトコンドリアから丸山を
救うのだ」
「待ってよ、ダメよ、まだ駄目よ」
言いながら千秋の意識は遠のいていった。
深く、真っ暗な闇の中に引きずり込まれていく。
ふっと、母の顔が流れた。
「雷よ、あいつは雷電のミトコンドリア、雷が
何に弱いかわかれば取り込めるはずよ」
「えっ?」
突然、母の幻影に稲妻が走ると、母の像が細切
れに弾けとんだ。
異種ミトコンドリアが母を攻撃したのだろうか?
想いながらも・・・
やがて千秋の意識は闇の奥底に落ちて行った。




