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221話 明菜と千秋

父を喰らったその時の姉が今千秋の前にいる。


異種ミトコンドリアの威嚇だとはわかっている

が目を背けざるを得ない。

凝視などできるはずが無い。


姉が叫ぶ。

お前は見ただろう。

醜く、死ぬ事すらできなかった恐怖の明菜の姿

を、見てあざけ笑っていたのだろうと。


明菜はゆっくり千秋に近づいてきた。

両手には包丁を握りしめている。

それを振り下ろし、千秋に突き刺そうとしてい

る。


「いい気になるな、お前がグールにならずに済

 んだのは運が良かっただけだ、運が悪けりゃ、

 千秋が父を喰らっていたはずだ」


千秋は包丁を振り回す明菜から逃げ惑った。

明菜に手を上げる事はできない。

明菜が言う通りだ。

運が良かっただけだ。


グール化でグールになったのは、ただ単に運が

悪かっただけなんだ。

グールになり、人を喰らうことになった明菜を

どうして非難出来よう。

できるはずが無い。


千秋は明菜の包丁をかわしながら、ただ嘆いて

いた。

どうすればいいというのだ。

むしろ自分がグールになればよかったんだ。

そうすれば・・・

そうすれば・・・


胸のペンダントがキラリと光った。

刹那、千秋に真理の扉が開いた。

違う

違う

ダメだ・・・。


明菜が振り下ろす包丁を、千秋は両の腕でガシ

リと受け止めた。


逃げていてはダメだ。

又、胸にかかげたペンダントを見た。


人は変われるんだ。心がけ次第では、いつでも

変わることはできる。

そう・・

引きずっていてはだめだ。

変えなければ

変えるんだ。

変えるためには・・

変えるためには・・・

自分が変わるしかない・・・


「いい加減にしなさい!」


千秋は明菜を弾き飛ばした。

包丁を持ったままの明菜は数メートル弾き飛ば

された。


「いつまでウダウダ言ってんのよ」


千秋は立ち会がり、大声で叫んだ。


「お前は、私を、笑ってる・・」


又包丁を振りかざし、千秋にせまってくる明菜に

千秋は背負い投げを決めた。

倒れ込んだ明菜の腹にまたがると


「未練たらしい、いつまでうじうじ言ってんのよ、

 起きたことをああだこうだ言っても、もうどう

 しようもないでしょ」


「あんたはいいわよ、グールにならなかったんだ

 から、私は、私は、父さんを・・」


明菜は身をよじって千秋を振るい落とそうとするが、

千秋はがっしり明菜を抑え込んだまま睨みつけた。


「姉貴、いい加減に黙れ」


千秋は明菜の頬をぶった。


「うが・・」


叫びと同時に明菜の全身から炎が吹きあがった。

慌てて明菜から飛び離れる千秋に


「ぶ、ぶったわね、もう許さない、あんたの本心

 がわかった、殺してやる、千秋を殺してやる」


明菜の身体が炎と同時に大きくなると、その姿が

十倍ほどの大きな体に膨らんだ。

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