217話 嫌だ
丸山は体を液状化した。
このままではいいように引きちぎられるがオチ
だ。
液状化すれば、攻撃力は落ちるが、防御には徹
しきれる。
そう思った途端女も液状化した。
液状化するとともに、そのまま液状化した丸山
に覆いかぶさってきた。
灰色丸山の液状に、白い千秋の液状がまとわり
つくように囲い込む。
やがて灰色の液状が、少しずつ弾けて行く。
プチン、プチン、音をたて、泡が弾けて行く。
-------暗転-------------
千秋の意識は飛んでいた。
藤木の危機に思わず飛び出したが、むろん勝て
る相手ではない。
藤木ですら手も足も出なかった相手だ。
千秋がどうこうしても結果は見えている。
しかし黙って見ているわけにはいかなかった。
藤木は千秋にとって恩人であるとともに、憧れ
の人だ。
その藤木が殺られるのをただ黙って見ているこ
とは千秋の自尊心が許さなかった。
藤木の行動に教えられた、人は変わることができる
の精神は、今日まで千秋の心の拠り所だった。
だからこそ、強くもなり、グール討伐の為アカデミ
ーにも入った。
千秋の戦いの原点は藤木の教えにある。
その藤木が殺られるところを黙って見過ごすこと
は、己の今日までの生き様を全否定することにも
なる。
人は生まれたならば必ず死ぬ。
死は必然だ。
恐れる事など何もない。
死の到来が、遅いか早いかだけだ。
死にざまだ。
死にざまこそが、生きてる証の証明にもなる。
死の瞬間、後悔や躊躇いがあれば、
生の存在に曇りが生じる。
まっとうに死にたい。
千秋が藤木を助けるために無意識に動いた答え
である。
丸山の両手首がいきなり千秋の腹に入って来た。
藤木と同じ技だ。
わかっていたが、避けられるはずがない。
私は(弱いんだから)。
両の手で内臓をぐちゃぐちゃにする丸山の黄ば
んだ歯を見ながら千秋の意識は飛んだ。
これが、死と言うものなのか。
でも、後悔はない。
それに、言い訳じゃないが、グール化した世の
中に未来は見いだせない。この先に何があるの
かわからないが、少なくとも希望の明かりなど
片鱗も見いだせない。
潮時だ。
今が死ねる潮時だ。
いいじゃないか、恩人の藤木の為に死ぬのならば
藤木の為に・・・
ん、
違う。
私が死ねば、気を失ってる藤木が次は殺られる。
私は、私は藤木を助けるために死のうとしたん
じゃない。
藤木が殺されるのを見るに忍びず、先に自分が
死のうとしただけじゃないのか。
これを弱さと言わずして、何なんだ。
私は何も学んでいない。
弱いままじゃないか・・
嫌だ
嫌だ
嫌だよぅ・・・・




