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216話 笑えるくらい凄いじゃないか

丸山は退いた。

本能が身の危険を知らせている。

やばい、あの女はやばい。

違う、何かが違う。

最初の女と今、何かが違う。


身震いが、いや、これは本物の震えだ。

本能が導いた危険のサインだ。


「怖い」


生まれて初めて抱いた恐怖感だった。

そのまま二歩後ずさりした丸山に千秋が襲いか

かって来た。


丸山は夢中で手首の無くなった腕で防ごうとし

たが、それは瞬間に引きちぎられた。

まさに野獣だ。

生きたまま体を粉微塵に噛み切るつもりだ。

じょ、冗談じゃない。

右腕は肩から引きちぎられていた。


丸山は慌てて口からシールドを吐きだした。

両手首が無い以上口から出すしかない。

口からのシールドは少し能力が落ちるが仕方

がない。

技が、手首が無くなったため、ほぼ使えない。

技の大半は、手首を使用しての物だ。

あの女、それを知っていて、切断したのか。

とにかく、防御し、逃げなければ。


女を殺るどころの騒ぎじゃない。

己が殺られそうだ。


シールドで自分の身体を覆った丸山はとにかく

対策を考えようとした。

このシールドは最強だ。

口から出したシールドとはいえ、最強には違い

ない。

未だかって、誰にも破られたことが無い。

いくらあの女と言えど、直ぐ破る事は無理だ。

とにかく、落ち着かねば。

落ち着いて、冷静になり、対策をたてればど

うにかなるはずだ。


逃げるだけなら、なんとかなるはずだ。

ここに雪でも来ようものなら、逃げる事すら

おぼつかなくなる。


と、突然、足首に激痛が走った。

見れば女が足首を引きちぎっていた。


慌てて飛び跳ねた。

左足が引きちぎられ、それを女が投げ捨てて

いる。

赤い瞳が不気味だ。

又背筋に恐怖が走った。


傷口には茶色いコーティング。

再生は無理だ。


片足で跳び跳ねながら、唾を飲み込んだ。

シールドがシールドの役目をはたしていない。

女はシールドを無視し、丸山の左足に噛みつ

いてきたのだ。

信じられない。


「な、何なんだ、この女は」


丸山には呟く事しかできなかった。

恐怖が限界を超え笑いのゾーンに突入したの

だろうか。

可笑しくさえなって来た。

この強さ、おいおい、未だ誰も味わったことな

いだろう、凄い。

とにかく凄いぞ、この女。


ちくしょう、笑えるくらい凄いじゃないか。

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