215話 俺はとんでもない奴を相手にしているのではないか
丸山は、千秋の腹の中に手を突っみ、内臓を引
っ掻きまわしていた手を突然ひっこめた。
激痛が走った手を見て目を見開いた。
いつの間にか両手首を切断されているではない
か。
「お前何をした」
丸山の声は少し上ずっている。
苦悶の表情を浮かべていた千秋に両手首を切断
する暇など無かったはずだ。
がくり、膝をついて落ち着きを取り戻していた
千秋は手で腹をなぞると、傷口は無くなっていた。
「なんだその回復力の速さは」
見る千秋の目が虚ろだ。
内臓を引っ掻き回された苦痛で気絶していたので
あろうか、まだ虚ろなままだ。
しかし反し、殺気が凄い。
「お前、何者なのだ」
前の千秋とは違うことに丸山は気づいた。
千秋は四つん這いになった。
まるで獣のようだ。
何かが乗り移ったかのように喉をゴロゴロ鳴らし
ている。
丸山は又、舌打ちをした。
先が読めないのだ。
それに切断された手首をもとに戻そうとするが再
生が出来ない。
表面が土気色にコーティーングされているのが理
由だとはわかるが、そんな事ができる奴に未だ出
会ったことが無い。
「嘘だろう」
背筋から冷汗が流れた。
あの男が言っていた。
女は無傷で渡すよう。しかし無理ならば多少傷つ
けてもいい。
あの男はそう言いながら、最後にこうも言った。
「もしお前にそれが出来るならな」
その時の嘲笑が意味するものを今理解したのだ。
お、俺はとんでもない奴を相手にしているのでは
ないかと・・
獣のように四つん這いになった千秋は喉を鳴らし
ながら頭を下げ今にも丸山に飛びかかろうとして
いた。
その瞳は赤く光り、野獣の瞳そのものだった。




