212話 嫌な予感
だめ、生理的に受け付けない。
千秋は顔をしかめた。
丸山は嫌だ。藤木の敵だからではない。
全体から漂う嫌味が生理的に拒んでいる。
「お前が元木が言ってた女だな」
頭を掻きながら、丸山は一歩千秋に近づいた。
千秋は藤木をかばうように立ち位置を変えた。
「そのいじめられっ子は誰が治したんだ」
「藤木さんはいじめられっ子じゃない!」
「はあん?」
千秋の訳のわからない反論に丸山は首をひね
った。
この女、気の欠片も感じられない。
いや少しは感じられるが、元木が欲しがるレ
ベルじゃない。
元木と、あの男は何故こんな(普通)の女を欲
しがるのだ。
まあ、確かに面は可愛いが、元木の周りにはこの
クラスの女はわんさといる。敢えてこいつを欲し
がる必要など・・
「貴様、栗原千秋と言うのか、それとも黒木メイ
サのほうか。黒木メイサの方だろうな」
丸山は勝手に千秋をメイサだと決めつけた。
あの男が欲しがっていたのは栗原千秋の方だ。
目の前いる女は何の変哲もない、弱っちい女だ。
あの男が欲しがった栗原千秋ではない。
栗原千秋は(あの男)もやばい女だと言っていた
からだ。
目の前の女は、少しもやばくない。
「なんであんたがメイサと私の名前を知っている
のよ」
千秋は藤木をかばいながら丸山を睨みつけた。
「おっ?貴様が千秋なのか」
「馴れ馴れしく私の名前を呼ばないでちょうだい」
「ふーむ、お前が千秋だって、ありえんぞ」
顎を撫でながら千秋を見つめていたが、フトその
横にいる藤木を見た。
「綺麗に回復してやがる。てことは、貴様が回復
させたってことか、こりゃ、確かに凄いわ。こ
れだけの回復能力を、しかも自分じゃなく、他
人にできるなんて、まず俺の周りにはいないな、
なるほど、そう言う事か、回復のスペシャリス
トなんだな、貴様は」
「何を訳の分かんない事言ってるのよ、許さない、
藤木さんをこんなにしたあなたを、私は許さな
い」
藤木をゆっくり床に寝させると、千秋は丸山を睨
みつけた。
「ん?」
丸山の表情が変わった。
「なんだこれは」
千秋は右手を振ると、手首を剣に変えた。
千秋のきつい眼差しに、丸山は思わず後ずさり
した。
気のせいか・・
いま瞬間、感じたことの無い気のレベルを感じた。
瞬間だったが、凄まじい気だ。
女が発したのか。
いや違う。
こいつからは、今小さな気しか感じられない。
しかし・・・
丸山はもう一歩後ずさった。
嫌な予感がする。
あの男と、元木と、伊集院が欲しがる女だ。
こいつにはどんな秘密が隠されているんだ。
言う間に千秋が襲いかかって来た。
嘘だろ・・
冗談にしか思えない、弱っちい気だ。




