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211話 ニタリ丸山が笑った

「ち、千秋さん」


藤木は薄れゆく意識の中で叫ばずにはいられ

なかった。


「に、逃げるんだ、逃げなきゃだめだ、そい

 つは化け物だ、逃げてくれ・・・」


千秋は意識を失った藤木に近寄ると腰を落とし

腕を掴んだ。

微かに脈はある。

しかし、このままだと確実に死ぬ。


千秋は転がった首と立ったままの丸山の胴体

を凝視しながら、藤木に気を送った。

丸山がこんなに簡単に殺られるはずが無い。

嫌な予感がする。


しかしまずは藤木の回復が先だ。

雪がしていた回復の術を見よう見まねで使って

みるしかない。

雪に使えて、自分が使えないはずが無い。

どちらにしてもこのままでは藤木は持たない。


目を閉じ、一途に念を込めると、突然頭の中に

母が現れた。


「母さん、いるならもっと早く出てきてよ」


「そうもいかないのよ、あんたの中はまだ敵

 だらけだから」


「なによその敵っていうのは」


「そんな事より、その恋人助けたいんでしょ」


「恋人なんかじゃないわよ」


顔を真っ赤にしながら千秋は慌てて否定した。


「本当は千秋が自分でしなきゃいけないんだけ

 ど、今回は特別ってことで、あたしがしてあ

 げるけど、当分出てこれないわよ」


母が何を言ってるのかわからないが

とにかく藤木が助かればいい。

突然藤木を握ってる千秋の腕に何かが走る感触

を感じた。

見れば、藤木の周りに流れ出た血液が藤木の中

に戻って行く。

引きちぎられ、床に転がっている耳が藤木にく

っつくと、背中から腹に突き抜けていた傷口も、

元に戻っている。


「何これ?」


千秋は何もしていない。

ただ藤木と手をつないでいただけだ。

訳はわからないが、とにかく藤木の外見は元の

状態に戻っている。

あれだけ血の海だった床には、血痕すら残って

いない。

 死から救われたことははっきりした。

母が何かをしてくれたことはわかったが、その

メカニズムまではさっぱりわからない。


ふと殺気を感じた。

目線を向ければ、首の無い丸山の胴体が、自分

の首を拾い上げ、くっつけている。


「ふっ、驚いたぞ」


丸山は千秋とその横でうずくまっている藤木を

見た。


ニタリ

丸山が笑った。

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