210話 遅い、遅い、遅すぎるよ、お前は
「俺様の戦い方を知ってるだって」
丸山の瞳は赤く光っている。
藤木への攻撃をかわされ多少驚いているようだ。
「少し貴様を見くびっていたようだな。赤子の
手をひねる程度に考えていたが、やれやれだ」
丸山がまた消えた。
目の前に丸山の気配を感じ藤木は慌てて壁際か
ら離れた。
その背後に丸山が張り付いてきた。
臭い息を藤木に吐きかけると
「遅い、遅い、遅すぎるよ、お前は」
激痛が走った。
丸山が二本の腕を背後から突き刺さしてきた
のだ。
「腕ごと突き刺すとは・・」
強烈な痛みが全身を襲った。
意識を保つのがやっとだ。
剥がれようとするが、内臓をわしづかみされ動
くことができない。
無理に動けば内臓を全て外に持って行かれてし
まう。
いくらグールでも、ここまでされれば再生に時
間がかかってしまう。
それに出血の量も半端ではない。
血液が無くなれば、身体それ自体を動かすこと
が出来なくなり気の消滅と同時に核も消滅する。
「俺が背後に回って攻撃するのはな」
話ながら、藤木の内臓を手で引きちぎっている。
「こうして全身で感じたいからなんだよ、死にゆ
く者の断末魔の感触をな」
いきなり、藤木の耳を噛みちぎった。
「う、ぐぐ」
藤木は動くことができない。
動けばそれが最後となる。
動かなければ、それもまた最後になる。
こんなにも差があるのか。
何なんだ。
丸山のこのとてつもない強さは。
一瞬だ。
攻撃も防御も関係ない。
数秒で勝負がついてしまった。
「おいおい、いじめられっこちゃんよ、もう少し
楽しませてくれると思ったんだが、なんだよ、
この弱さは」
残りの耳を又、噛み切った。
突然丸山が藤木から離れた。
床に崩れ落ちながら消えゆく意識の中で藤木は
見た。
頭を切り落とされた丸山の胴体の向こうに立っ
ている栗原千秋の姿を。




