20話 千秋の苦悩
(しばらく体調を崩していましたので更新できませんでした。
少し回復しましたので、ボチボチブログの更新もしていきたいと
思っています。この記事が最初の復帰作です)
千秋は昔から幽厳村正が好きではなかった。
好きではないと言うより、怖かった。
人を侮蔑するあの冷笑と鋭い目。
権力にすり寄る姿も好きでない。
ハンターの実務をこなす傍ら、内務省の統率
者としてハンターを監視している。
実体がよくわからなかったのだ。
幽厳村正と組んでもう三年近くなる。
何とか好きになろうとしたがどうしても無理
だった。
千秋がそんな気持ちだから当然幽厳村正も心
を開かない。
それはわかっていた。
痛いほどわかっていたが、生理的にどうして
も受け付けないのだ。
それでも今日まで我慢してやってこれたのは、
ハンターとして人を救う任務が自分にしかで
きない事だとわかっていたから、やってきた
のだが、、。
今日の戦闘もそうだ。
グールに食べられそうな人間を見つけ、もっ
と手前で助けることは十分可能だった。
しかし幽厳村正は女性が食べられるのを、ま
るで当たり前のように見過ごしていた。
確かにそれがハンターの手順ではあるが、そ
れでは本末転倒のような気がしてしかたがな
い。
人一人の命をあまりにも軽々しく扱う幽厳村
正に、いや、ハンター組織の在り方そのもの
に疑問を持ち、たまらず意見もした。
しかし幽厳村正はあの冷たい視線で薄笑いを
浮かべるだけで千秋の意見を全く聞こうとし
なかった。
捕獲したグールの扱いもあまりに非人道的だ。
とても見ていられない光景だった。
切り刻み、研究と称しては女のグールなら
凌辱し、バラバラになった死体が再生しよう
とするその瞬間再度、壊すのだ。
そのおぞましい光景が、今ではハンターたち
の当たり前の光景として見過ごされることに
千秋は心底怒っていた。
全ては弱すぎたのだ。
幽厳村正の力は絶大だった。
幽厳財閥の御曹司であることもそうだが、
ハンターとしての実力もピカ一だ。
何をとっても、千秋が幽厳に勝るものはなか
った。
しかし今は違う。
ポケットの中で握りしめる薬さえ飲めば、間
違いなく幽厳など足元にも及ばぬ力を発揮で
きるのだ。
言わない。
言えない。絶対言ってはいけない。
この薬をあの幽厳村正が飲めば、考えただけ
で身震いが起きる。
千秋は幽厳村正の横顔を見ながら、そう心に
誓っていた。
そういえば、雪も言っていた。
「あなたはいずれ味方になると」
どういう意味なのだろう。
千秋がグールの仲間になるというのか。
そんな事絶対にありえない。
でも、でも
もう幽厳村正とはつるみたくない。
忘れていた(安堵)という感情を雪に出会い
思い出してしまったのだ。
おかしい、たしかにおかしい。
最近のハンターは。
殺人集団の集まりじゃないか。




