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208話 お前を殺したかっただけなんだ

しかし藤木は冷静だった。


丸山は確かに強い。

桁外れだ。

しかし、その分驕りがある。

目の前の丸山は藤木を舐めている。

藤木の実力をあらかじめ想定し、その範疇で

あることを確認すると、遊び始めたのだ。

戦いの中での油断は命取りになる。

付け込むとすればそこだ。


丸山の実力はおおよそわかった。

ケタ違いではあるが、雪より少し強いぐらいだ。

伊集院博士の強さにはおおよそ届かない。

その伊集院博士に、雪と藤木の二人でなら練習

で二十本に一回は相打ちにまで持ち込めた。


雪と二人なら、丸山をなんとかできるかもしれ

ない。

とにかく雪が来るまで持ちこたえなければ。


「ははーーん。貴様の作戦がわかったぞ」


丸山が舌なめずりした。

前歯が欠けている。

醜い顔が、さらに醜さを増している。


黙ったままの藤木に


「篠原雪を待っているんだな」


藤木の頬がピクリと動いた。


「どうやら図星のようだな」


読まれている。

藤木は唇を噛みしめた。


「直人、教えてやろうか」


相変わらず藤木は何も答えない。


「お前が何でそんなに弱いかその理由を教えて

 やろうと言ってんだよ」


丸山はそう言うと胡坐をかいてその場に座った。

下卑た笑いが藤木を挑発している。


藤木は少し間合いを広げた。

丸山の不意打ちは得意技だ。

胡坐をかいた事が、余計藤木に不安を与えた。


「お前は篠原雪と一緒に戦えば俺を倒せるかもし

 れないと思っているよな」


又藤木の頬がピクリと動いた。


「その逃げ腰だ。お前が強くなれない理由はな。

 ここで考えすぎるんだ」


丸山は指で頭を叩いて見せた。


「確かに篠原雪が来れば少しはお前らに勝機が

 生まれるかもしれん、しかしなあ直人」


丸山は首を振ると


「助けを待つなんて、その弱気こそがお前の弱

 さなんだよ。昔からそうだ。貴様は俺以外の

 仲間に虐められている時でも何もしなかった。

 俺を除けば実力的にはお前より弱い奴らばか

 りだ。一人ずつ捻り潰していけば、お前なら

 簡単に勝てたはずだ。俺がその弱い奴らの仕

 返しをしない男だともお前はわかっていたは

 ずだ。しかしお前はいじめられる側に甘んじ

 ていた。そこそこ強いくせにな。お前は待っ

 ていたはずだ。いつか俺達が自分の愚かさに

 気づきお前にひれ伏することをな。だからお

 前は甘ちゃんの弱虫だと言うんだよ。人はな、

 強い者に飲み込まれる、強い者にすり寄って

 くる生き物なんだよ。お前の弱さはな、その

 偽善的精神なんだよ」


丸山はスクと立ち上がった。


「強さとはどんなものか、お前に思い知らせて

 やる。お前が未だ全力を出していない事を俺

 が知らないとでも思っていたのか」


反射的に藤木は又間合いを広げた。


「おいおい逃げる気か。そんなに間合いを広げ

 て」


苦笑する丸山は


「直人、お前の決定的な読み違いはな、俺が全

 力を出していると思っている事だ。お前が全

 力を出していないように、俺は未だ本来の力

 の一割も出していないんだぞ」


瞬間、丸山の身体から気が発せられた。

周りの壁がその勢いで弾けとんだ。


「う…嘘だろ」


藤木はたじろいだ。

本当だ。

丸山の言っていることは本当だ。

何だこの気の圧力は。

これでは、雪と協力しても丸山にかなうはずが

無い。


「悟ったか直人、お前には、万に一つの勝機が

 無いって事を、教えてやろう、直人、俺の目

 的はな、実は女なんてどうでもいいんだよ、

 直人、お前をな、お前をいたぶり、殺したか

 っただけなんだよ」


丸山の姿が藤木の前からフッと消えた。

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