204話 彼だ、やはり彼に間違いない
藤木直人が千秋の(星の王子様)ではないかと
思ってはいた。全体の雰囲気から千秋は感じて
いた。
その昔・・・
争いを好まず、いじめられてもただ笑ってやり
過ごすだけの千秋。
いつものように通学路で学校仲間にいじめられ
ていた時偶然通りかかった男子学生。
彼が優しくいじめっ子を諭、千秋を救ってくれ
た。
その時彼が言った
「人は変われるんだよ、何もしないんじゃなく、
何かをする側の人間に、今すぐにでも変われ
るんだよ」
の言葉。
悩んでいた千秋の心には沁みた。
その時から千秋は変わった。
変わりたいと思っていたが、きっかけが無かっ
ただけだ。
千秋を救ってくれた男性は光り輝いて見えた。
きっかけだ、今こそ自分は変わる必要がある。
変わるんだ・・・
いや、変わりたい、
絶対変わってやるんだ・・・
いじめられる側からの脱出だけでなく、いじ
められている側の人に救いの手を差し伸べら
れる側に。
助けてくれた学生は多少いじめっ子と揉めたが
大人が子供をあやすように、笑いながら、それ
でも華麗にいじめっこの攻撃をよけていた。
力だ、正義を唱えるには、正義を実行する力が
必要だ。
千秋が格闘技を習い始めたきっかけは、ここに
あった。
「やい、榎田直人、兄ちゃんに言いつけてやる」
いじめっ子は大人びた捨て台詞を残して逃げて
行ったがその時の「榎田直人」の名前は強烈に
千秋の脳裏に残った。
初めて藤木直人に会った時、全体の感じ、そし
て直人と言う名前、ひょっとしたらあの時の
王子様かと思ったが名字が違う。
カン違いかと思っていたが今、藤木の前にいる
丸山智己は藤木直人の事を、榎田直人と呼んだ。
彼だ、やはり彼に間違いない。




