203話 榎田直人
藤木直人は黙ったままだ。
その前で丸山智己が腕組みをしてニヤついて
いる。
「少しは強くなったようだな」
「何しに来た」
「おいおいそれが中学まで同級生だった友達
に言うセリフか」
丸山は完全にリラックスしている。
唇を噛みしめたままの藤木を千秋は壁に貼り
つき黙って推移を見つめていた。
丸山からは強烈な邪気を感じる。
おそらくあの邪気が、丸山の余裕なんだろう。
どう贔屓目に見ても藤木に勝ち目があるように
は思えない。
藤木が危機に陥ったら、その時は・・
千秋も唇を噛みしめ二人の成り行きを見守った。
なにも答えない藤木に
「そうか、俺は友達じゃないと、そういいたい
顔だな。よく考えてみればそうだよな、お前
は俺の友達じゃなかった、俺のおもちゃだっ
たよな、俺の暇つぶしの道具だったよな、道
具を友達と呼んでやったのに、お前はその恩
を無視する気か」
「何しに来た」
どうやら藤木は丸山の挑発には乗る気がないよ
うだ。
しかし丸山の(藤木いたぶり)は止まらない。
「俺は驚いたよ、お前がまさか伊集院の軍団の
まとめ役やってると聞いてな、あの弱っちい、
ヒイヒイ泣いていた直人ちゃんが、今では隊
長やってるとは、まさに、伊集院弱体チーム
だよな」
「そんな戯言を言いにわざわざここまで来たのか」
「戯言?、おいおい直人ちゃんよぉ・・あれ、忘
れちゃったのかなあ、俺の怖さを、直人ちゃん
、思い出させてあげようか」
「人はいつまでも同じだと思うな、人はいつでも
変われるんだ」
藤木は拳を握りしめた。
「変われる?何を戯言を、弱い奴はいつまでも弱
い、強い奴はさらに強くなる、これが世の現実
だ」
「黙れ!」
「おっ、怒ったな」
丸山は又黄ばんだ歯を見せた。
「いい事を教えてやろう。俺がここに来たのはな、
榎田・・いや違う今は藤木だったな、金持ちの
養子にもらわれた、もらわれっ子藤木直人だっ
たよな」
千秋の顔から血の気が引いた。
榎田・・・
榎田・・・
そう
榎田直人だった。
千秋の星の王子様の名前は。




