200話 死なせたくないのだ
辺りを見渡した千秋は大きなロッカーを見つ
けた。
あの中なら人を隠すことができる。
メイサと力也をあそこに入れれば千秋は動け
るようになる。
いくら雪が大丈夫といえど相手は四十人だ。
単なるグールだけならいいが、異種ミトコン
ドリアを取り込んだS級グールが入れば二人
だけで対応できるとは思えない。ここは一人
でも味方が多い方がいいはずだ。
六名の部下を戦いに参加させないのは雪だっ
て、襲ってきた中にS級グールが入るを考慮
にいれているのだろう。
味方の六人が足手まといにしかならない相手
だと認識しているのだ。
雪には襲ってきた相手が誰なのか、その目的
が何なのか、おそらく想像がついたはずだ。
だからこそ、藤木と二人だけで戦う決意をし
たのだ。
二人が応戦できなければ、どのみち全滅は免
れないと、そう判断しての作戦に違いない。
そんな玉砕覚悟の作戦を素直に見ていられる
千秋ではない。
助けは絶対必要なはずだ。
生き残るのが目的とするならば。
千秋はメイサと力也をロッカーの中に押し込
めると小さく息を吐いた。
どちらに行くべきか・・・
右に行けば藤木
左は雪
答えは最初から決まっている。
首に下げたペンダントを握りしめると千秋は右側
の入り口目指して走り始めた。
藤木が気になるから藤木の方に行くんじゃない。
純粋に力のバランスを考えれば、雪より実力が劣
る藤木の方に行くのが作戦の王道だ。
そう自分に言い聞かせるのだが、心に少し後ろめ
たさが滲む。
そうよ・・私は気になるの、藤木の事が。
あの人が、ひょっとしたら、わたしの心に宿る
王子様なんじゃないかと。
確かめたい。
確かめる必要がある。
死なせたくない。
死なせたくないのだ・・・




