197話 私の生存理由
しばらく力也の姿を眺めていた雪は、力也が大
きなイビキをかきだすとゆっくり立ち上がり
「もう大丈夫よ、藤木君、力也君をこのベット
に寝かせてくれる」
雪は力也を訓練室から出すよう藤木に頼んだ。
「千秋ちゃんも少し休んだ方がいいわ」
「私は大丈夫よ」
「ホントに?」
雪は涼やかな目で千秋を見つめた。
「強がって大丈夫だと言ってるんじゃないの」
「ううん、ホント、ほら、この通り」
千秋は立て続けにバクテンをしてみせた。
バクテンは千秋の得意芸だ。
「呆れた」
バクテンできるから大丈夫だと、あまり関連性は
ないが、とにかく千秋は元気一杯だ。
あれだけの精神的格闘をしたのに、あの元気さは
考えられない。
雪は微笑みながら、唇を舐めた。
千秋の能力は未知数だ。
伊集院博士の思惑、元木博士の思惑、そして
幽厳村正の思惑。
三者三様だが、目的は彼女、栗原千秋だ。
黒木メイサも対象に入っているが、目的はあく
までも栗原千秋だという。
何故彼らが栗原千秋を獲得しようとしているのか
雪は知らない。
雪もメイサも同じように異種ミトコンドリアの持
ち主だ。
にもかかわらず、彼らは最終目的は栗原千秋だと
言う。
何故なんだ。
その理由を知りたいばかりに、雪は元木博士の元
を離れ伊集院側に付いた。
いわゆる裏切り行為だ。
藤木がそんな雪を全面的に信頼していない事はわ
かっていた。
しかし、そんなことはどうでもいい。
雪は知りたいのだ。
何故、彼らは栗原千秋に興味をあれほどまでに
持つかを。
確かに、千秋が時々発する異様な(霊気)に雪は
正直驚いていた。
今は未だ雪の方が実力は上だろう。いや、雪の能
力の足元にも及んでいない。
しかし、脅威を感じるのだ。
千秋が発する瞬間的な(霊気)は尋常ではない。
あれは個人の霊気ではあり得ない。
複数の、霊気が混ざり合った、特殊な霊気だ。
何なんだ、あの霊気は。
そして伊集院達が狙う、栗原千秋の秘密とは何な
んだ。
知りたい。
いや、知らなければならない。
それが(私の生存理由)なのだから。
千秋の能力の限界はおそらく千秋自身もしらないだ
ろう。
自分がそうであるように。
伊集院博士は言った。
雪と千秋とメイサの三人だけが、測定不能な異種
ミトコンドリアの持ち主だと。
世界中にわかっているだけでは三人しかいなと言う。
地球上のDNAデーターは全て伊集院博士の手元に
集まってくる。
たった三人、三人しかいない貴重なデーターだと
伊集院博士は言った。
伊集院博士のお蔭で雪は異種ミトコンドリアを今
日まで五つ取り込んでいる。
なのに、何故千秋なんだ。私でなく・・・




