183話 ヘヘヘヘ
異種ミトコンドリアは大きく壁になりメイサ
の行く手を阻んでいた。
光の点はすっかり隠され見えなくなっている。
突然メイサの身体が弾けた。
バラバラと小さな分子の固まりまで分解され
ると、すぐ又元に集合した。
メイサの目は真っ赤に燃えていた。
千秋から受け取った力の固まりを分子レベルに
まで弾け、分子全体に浴びせ、配列を最適に並
べなおしたのだ。
新生メイサの誕生だ。
しかし異種ミトコンドリアがまだ外に出たまま
だ。
新生メイサは完全な戦闘モードに入ったまま蘇
ったせいで、目の前の異種ミトコンドリアを敵
とみなしていた。
抗体が侵入物を除去する生き物本来のメカニズ
ムだ。
分子が新しく配列し直したせいで、異種ミトコ
ンドリアが自分の一部である事がまだ行きわた
っていない。
抗体としての異種除去機能だけが、働いている。
メイサは両腕をブルンと振るうと、右手を銃に
左手を剣に変えた。
全身を薄いシールドで防御した。
食いちぎられていた足は完全に蘇生している。
異種ミトコンドリアが凄いスピードでメイサに
体当たりしてきたが、メイサはそれを難なく受
け止めた。
受け止めると同時に、剣で異種ミトコンドリア
を地面に突き刺し動けなくした。
シンクロする前とは圧倒的なパワーの差だ。
異種ミトコンドリアの大きさがどんどん小さく
なって行く。
まるでメイサの怒りに怯え、縮みあがった子犬
のように。
メイサは異種ミトコンドリアの頭に銃口を突き
つけるとニタリ笑った。
確信がある。
妙な確信だが、間違いのない確信だ。
引き金を引けば異種ミトコンドリアはじけ飛ぶ。
それこそ分子レベルにまで粉々に。
引き金に力を込めた。
「やめなさい」
雪の声が響いた。
大きく、ドームの中で拡声器のボリュームを最大
に上げた音量で。
「やめなさい!もう勝負はついているのよ、そい
つを引きづって光の中に飛び込みなさい」
「ヘヘヘ」
メイサの瞳はまだ飛んだままだ。
本能が使命を全うする為、異物を排除する。
異種ミトコンドリアは抹殺しなければならない。
徹底的、かつ完全に。
メイサはゆっくり引き金を引くと、異種ミトコン
ドリアに気のこもった銃弾を何発も、何発も浴び
せ撃った。




