177話 片足を失った
「わからない、わからない、私にはわからない」
メイサは混乱していた。
突然に二人の千秋が現れ、一人は自分で頭を撃
てと言い、もう一人は赤い液体を叩きのめせと
言う。
どうすればいいのだ。
何が起きているのだ。
メイサは頭を抱えうずくまった。
小さな恐怖の固まりが、少しづつ大きくなって
行く気がする。
弱く、どんどん、どんどん弱くなって行く気が
するのだ。
千秋が言うように自分の頭を吹き飛ばせばいい
のか・・
いや、それは千秋が言うように自殺じゃないか
・・うう、考えれば考える程頭が痛くなる。
わからない、どうしようもない、動きたくない
、叫びたい・・
助けて・・誰か助けて・・。
「いい加減にしなさい」
千秋は拳を握りしめた。
手の先をナイフに変えると、それをメイサの腹
に差し込んだ。
「感じなさい、私の意識を、血の流れと共に感
じなさい」
「な、、何を・・あ、千秋、千秋じゃないの」
「いい、聞きなさい、あの赤い化け物はあなた
の異種ミトコンドリア、あいつは今メイサの
心を乗っ取ろうとしているのよ。負けちゃダ
メ、反対にメイサがあいつを取り込むのよ」
「無理よ、私には無理、私には戦うことなんて
できないわ」
「大丈夫、私が手伝う、メイサのバックに私が
付いている、私の、力を使いなさい、私の
力をメイサの力として使うのよ」
「そんな事できっこないわよ」
「できる、絶対できる、メイサなら絶対できる
って、だから立ち上がり、あの赤い化け物を
懲らしめるのよ、メイサが怒るとどれほど怖
いか、あの赤い化け物に思い知らせてあげる
のよ」
「そんな、無理だってば」
「私も付き合うから、ね、感じるでしょ、身体
の隅々に、私の気の力が」
しかしメイサは頭を抱え、うずくまったままだ。
完全に自分の殻に閉じこもってしまった。
「メイサいい加減にして、正気に戻って頂戴」
赤いメイサの異種ミトコンドリアは鎌首を持ち
上げ、メイサに襲いかかって来た。
メイサは大きく弾き飛ばされ、片足を失った。
「メイサ、メイサってば」
千秋の叫びも、メイサには届かない。




