175話 新しいメイサ
メイサはゆっくり前を見た。
遠くで瞬く光からは千秋の香がする。
しかしその千秋は、今メイサの目の前にいる。
メイサを愚弄し殺すとまで言い放っている。
こいつは千秋じゃない、そんな気もするが案外
千秋の本性とはこんな奴だったかもしれないと
思う自分もいる。
目の前の千秋が言うように、自分は千秋を憎ん
でいたのかもしれない。
何をやらせてもメイサより常に一歩前を行く千
秋に嫉妬していたのは事実だ。
それを憎しみと言うのなら、確かに千秋に憎
しみを抱いていた。
しかしそれは、ライバルじゃないか。
憎しみなんかじゃない。
認め合った、ライバルじゃないか。
「ばーか、お前なんか私はライバルなんてこれっ
ポッチも思ってやしないわ」
千秋は剣に変えた両腕を上げ舌なめずりをした。
「お前を殺し、私が真のメイサになるんだ」
千秋はいきなり切りかかってきた。
避けることすらできぬ凄いスピードだ。
剣はずぶずぶ、メイサの身体を貫いていく。
切り刻まれ、どんどん砕け散って行く。
しかしメイサには何も出来ない。
反撃しようと、いや反撃ではない、防御しようと
しているのだが、あまりのスピードに追い付いて
いけないのだ。
まさになぶり殺しだ。
メイサは段々腹が立ってきた。
ここまで千秋に馬鹿にされ、何もできないなんて
おかしいじゃないか。
メクラめっぽう銃を撃ちはするが、千秋は難な
く避けてしまう。
悔しい、悔しくて涙が出てくる。
そんな時、耳元で怪しい声が囁いた。
「強くなりたいか、もっと強くなりたいか」
「当たり前でしょ」
「その為なら、なんでもするか」
「なんでもするわ!」
メイサは耳元で囁く声にはっきりと言い切った。
「ならば撃て、己のこめかみにその銃を当て、あ
らん限りの弾を撃ち込むんだ」
「そんな事をすれば私は死んでしまう」
「いや、死にはしない。一人のメイサが死んでも
その後ろには、新たらしく強大な力を持つメイ
サが待っている。お前はそいつにバトンタッチ
すればいいのだ、後は新しく生まれ変わったメ
イサが千秋を殺してくれる」
「新しいメイサ?」
「そうだ、新しいメイサだ。弱っちい今のメイサ
は消滅させればいい。強いぞ新しいメイサは、
さあ、引き金を引け、引いて弱い、どうしよう
もないメイサを抹殺するんだ」
メイサはつられる様に銃をこめかみにあてた。
「強くなれるのね・・私強くなれるのね」
「ああ、間違いない、千秋など切り刻めるほどの強
さが手に入るんだ、さあ、ためらうな、引き金を
引け」
「わかった」
メイサは己の銃をこめかみにあてると、躊躇いなが
ら、それでも引き金を強く引いた。




